表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/40

第十話 酒飲み

 我らが酒飲み女魔法使い――アンジェルがいなくなって三日が経った。

 アンジェルなんて名前の割には最悪な性格をしている、というのは俺たちの定番のいじりだ。ああ、いや、今はそれ関係なくて……


 最初はいつものことだ、と気にしていなかったがさすがに帰りが遅すぎる。

 そして、何やら聞き込みをしたら山に行ったとのことじゃないか。


「うおお……これ絶対アンジェルのだろ」


 山で探している途中、相方のクロヴィスが捨てられているワインのボトルを発見した。間違いなくそうだろう。

 ため息をつく。本当に、戦いでは頼りになるがそれ以外になるとこれだ。


「うわっ、しかもこれアンブラセント・ロワールのワインだぞ!?」

「まじかよ」


 どんだけ金使いやがった。しかも、それを俺らに分けもしないで飲み干す!?

 許せねえ。


 クロヴィスから空のボトルを奪い取って、匂いを嗅ぐ。


「白ブドウだな……辛口だ。これをラッパ飲みしたんだったら頭がぶち壊れるぞ」

「三日も休んだんだから、一週間は働き詰めだな、こりゃ」


 参ったなあ、とクロヴィスは金髪をガリガリと掻く。そもそもEランク冒険者でしかない俺らが休むなんてこと自体ありえねえ。

 ……まあ、アンジェルはDランクだが。


 なーんて話しながら進んでいくと、ポッカリと空いた洞窟があった。こんなのあったか?


「……おい、ここで俺はアンジェルの気持ちになって行動してみるぞ」


 クロヴィスがよくわからねえことを言い出した。あのワインの匂いだけでやられちまったか?


「あらぁん! 酔っちゃって最悪よー。いい男でもいないかしらぁん。あらやだ! 雨が降ってきたわ! 私って雨女ー。罪な女ねー。あらぁん、美女な私はここの洞窟で雨宿りしちゃうわ♡」


 そして、真顔に戻って俺を見つめてくる。


「よし、ここだな」

「……俺はお前との友情を確信できなくなってきた」

「迫真の演技すぎて惚れちまったか?」

「ああ、そういうことにしておこう……」

「とにかく、行くぞ!」


 無理やりだなあ。グイグイと迷いなく洞窟に入っていくクロヴィスを見ながら、俺は苦笑した。

 好奇心が強いというか、なんというか。いつか虎穴に入って死ななければいいが。


「あ? ゴブリンの巣窟か?」

「うーん、外れっぽいなあ」


 まあ、せっかくだしゴブリンを殺して晩メシようの金を稼ごう。

 そして、この思いはクロヴィスも同じらしい。


 俺たちは剣を構えて、まずは一匹殺そうとした。


 ――だが。


「ゴブリン・シャーマンもいやがる!」


 クロヴィスの声で魔法が俺に迫っていたことに気づく。幸い大した殺傷力の無い水魔法だったが、ちょっとビビっちまった。


「情けねえなあ!?」

「お前が脅してきたんだろ」


 しかも、今ので不意打ちで殺そうとしたゴブリンにも気付かれちまった。ちくしょう、なんだかやりずれえな。


 ブンブンと錆びているツルハシを振り回してくる。


「『飛泉の太刀』」


 クロヴィスが最も一般的な剣技でそのツルハシを切断する。こういう小手先の技が上手いのは、俺よりもクロヴィスなのだ。


「ウギィ!」


 ゴブリンが醜い悲鳴をあげると、壁の間からゴブリン一匹と……まだ小さいが、ハイ・ゴブリンもいる。


 ここまで上位種が(そろ)ってたのか。こりゃ、めんどくせえ、で済ませていい案件じゃないなあ。


「まずは一匹殺るぞ! 『強斬鉄(きょうざんてつ)』!」


 思いっきり振りかぶって、俺の最高の一撃を繰り出す!

 いつもの感触とは違うが、しっかりと肉にあたる感覚があった。まずは、一匹。


「……は?」


 しっかりと俺は剣を振るった。Cランクの冒険者にも、この力強さを褒められたことがあるぐらいだ。


 なのに、なんで目の前の筋肉は倒れねえ!?


「あ」


 軽く上を見る。

 そうしたら、オーガ族が俺の大剣を手でつかんでいた。ゴブリンがオーガになった?


 ……いや、オーガがいたのだ。この洞窟には。レッサーでも確かランクはD+

 俺たちプラスアンジェルがいて倒せるだろう、ってぐらいの格上。


「『握り潰し』」


 グシャア、と俺の大剣は握り潰された。ハハ、意味がわからねえ。

 ワインの飲みすぎ? 幻覚?


 でも、今取れる選択は……


「に、逃げろー!!」


 俺とクロヴィスは同時に走り出した。まだこの人外な光景を眺めていただけのクロヴィスは、俺よりも冷静で、すぐに出口を目指すのではなくある()を指す。


「あそこならオーガは入ってこれねえ! 死ぬ気で行くぞ、明日の太陽とワインのためによお!!」

「あったりまえだ、ボケカス!」


 冒険者としての誇りなんて小便と一緒にぶちまけて、一心不乱に穴を這っていく。


 そして、天国(エデン)であるはずの抜け穴の先は、俺たちを更に混乱させる。


「ホーンラビットの……巣?」


 クロヴィスが呆気にとられた顔で呟く。

 五匹のホーンラビットは、全員首を傾げていたが……俺たちが獲物だと気がついたみたいで、ゆっくりと近づいてくる。


「お、俺は逃げるぜ……!」

「く、クロヴィス!」


 そして、また穴に入る。モゾモゾと、ゆっくりと進んでいくが、ダメだ……クロヴィス、それじゃあもう間に合わないんだ……


「う、うおおおお?!」


 ブス、っとクロヴィスのケツをホーンラビットたちが突き刺す。


 ああ、始まってしまった……


「うぉぉおおおおああああああああぁぁぁ?! 俺はケツにぶち込まれる趣味なんざもってねえんだよおおおお!!」


 酷く残酷なクロヴィスの悲鳴を聞きながら、俺は初めて神に心の底から祈った。


 ――どうか、クロヴィスを楽に死なせてやってください、と。そして、俺は来世では超絶イケメン最強エリート貴族にしてください、とも。


 ……まあ、人間だから二つ目の願いの方を熱心に祈ったが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ