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06

水着回

 スーレインには問題なく到着した。ただ解せないのは、奴の話術が巧みであったことである。

 スーレインでの俺と奴の関係はバディとなった。


「恋人だとか夫婦だとか言わなかったことは褒めてやる。だが……」


 用意された宿は二人部屋。完全に深読みされるように俺との関係設定を説明したな。


「誤解だって! 俺はちゃんと説明した!」

「じゃあなんで部屋が一緒なんだろうね? 変態後輩君」


 簡素な造りの部屋ではあるが、防音性の高いと宿の人に説明されている。


「俺ってそんなに信用ないか!?」

「今までの行動を省みろ」


 持って来た荷物を整理しながら俺は、ケートス狩りの道具を探す。


「この指輪、便利だけど、袋や箱に入ったものは一々取り出して確認しないといけないのが面倒だな……」

「アイテムボックスのプロトタイプみたいだから仕方ないよ、そこは」

「クソッ、やっぱり後輩転生者全員が妬ましい……!!」


 でも、荷物が嵩張らないから許そう。


「で、ケートスが現れるまでどうするんだ?」

「テキトーに屋台廻ったり、海辺を散歩したり」

「泳がないのか?」

「水着無いし、そもそも着るつもりない」


 なんか、ガチの女物の衣類を着たら大切なものを失いそうな気がする。


「ミニスカートを履いているのに今更じゃないのか?」

「残念だったな、これはミニスカに見えるズボンだ」


 俺は分かりやすいようにズボンの端を摘み上げて見せる。


「ガタッ!!」

「息子の事を大切にしたいなら座れ」


 何に興奮したのか丸見えだクソ野郎。


「……さてエロ後輩君。その後ろに隠している手に持っているものは何だね?」

「一緒に……海で泳ぎません?」

「い・や・だ・ねっ!!!!」


 今日の金的は良い音(悲鳴)がした。





 ◇


 奴を部屋に置き去りにして俺は街を散策する。スーレインの街並みはとても穏やかではあるが、イセタルツとは違った賑やかさを感じる。


「お、この匂いはゲソ焼きか?」


 炙られた甘辛なタレとゲソの香りがした方向を向くと、屋台があった。ただ、ゲソの見た目の所為か人が少ない。


「おっちゃん、それ、5本くれるか?」

「ラッシャイ! 5本ね〜……ほい、5本で25ガメド(銅貨5枚)だ。それにしても嬢ちゃん一人旅かい?」

「いんや、ケートス狩りの依頼を受けたから来たんだ。それとかんs…ツレが1人いる。今は宿で休んでるけどな」


 どうしたんだ急に1人か確認して。面倒なことが起きてなけりゃ良いけど。


「嬢ちゃんがか?」

「おう、こう見えてもちゃんと戦えるぜ?」

「……魔法か?」

「それは企業秘密だ」


 探られているのか?

 いや、考え過ぎだろう。俺は少し警戒しながらも、ゲソ焼き屋のおっちゃんに問いかけてみる。


「それにしてもおっちゃん、どうしてまた俺に質問を?」

「い、いいや、大したことはねぇよ」


 大したことは無い……か。ならそうなのだろう。けれど一応用心はしておく。


「そうか、変に勘繰っちまってすまねぇな」

「いいや良い。こっちこそすまねぇ。ただ、今夜は海に近付くのは止しておけよ?」

「へーい」


 俺はおっちゃんに背を向けながら手を軽く振り、その場を去る。

 おそらく今日、何かが起こるんだろうなぁ。でも、あのおっちゃんは何者だ?


 海に続く道をゲソ焼きを頬張りながら進んで行く。人通りが多少減ってはいるが、まだ陽は高い。砂浜にはこの街の子供達3人が遊んでいて、桟橋の方では釣りを楽しんでいる者もいた。

 潮風が頬を撫でる。フードを被っているおかげで陽射しはキツくないが……こういう天気では泳ぎたくなる。しかし、まだ男でありたいために女物の水着は着たくない。


「……足だけでも海水を浴びよう」


 ブーツとソックスを脱ぎ、抱えながら砂浜を歩く。足の裏に日光によって熱を孕んだ砂が当たって熱いを通り越して少し痛い。しかし、我慢して海水まで辿り着くと、そこはとても心地良いものだった。


「懐かしいなぁ……海は生前の学校行事以来か……」


 冷たい海水が、足の甲を撫でる。波によって暖かかったものがスッと冷えていくこの感触がたまらない。


「……今夜、ねぇ」


 おそらくおっちゃんが言っていたのはケートスの事だろう。しかし何故俺を止めようとした?

 足を海水に浸からせながら浜辺を移動する。こういう時は子供達に聞くのが良いだろう。


 俺が近付くと、彼らの視線はこちらへと向く。

 俺の装いは太陽が出ているのに真っ黒な為、彼らは警戒しているようだ。なので、誤解を解くためにフードを退けてから話かけた。


「警戒させてすまないね、君たち」

「お姉さんは誰?」


 ボールを抱き抱えていた少女が問いかけてくる。


「俺はシルヴィア。ただの旅人だよ、お嬢ちゃん」

「姉ちゃん旅人なのか!? なぁ、旅の話を聞かせてくれよ!!」

「ちょっとゲン、あまり知らない人に近付いちゃ危ないって」


 活発そうな赤髪の少年が、旅人という言葉に反応して喰いかかる。それを抑えようとしている大人しめの少年。


「そうだぞ少年。俺が悪い人かもしれねぇから、そう易々と心を開くのは関心しないな」


 俺は笑みを浮かべながら、ゆっくりと彼らとの距離を測る。


「それでお姉さんは何者なの? 普通の旅人じゃ無いよね?」


 この落ち着いた少年、少し歪だな。

 それに、いつのまにか彼らの前に出て守るように立っている。


「……ケートスの討伐を依頼されたから来たんだよ。でもちょっと怪しくてねぇ」

「今夜、海には近付くなって話でしょ?」

「ね、ねぇ、シュウ……言っちゃダメなんじゃ……」


 少女が止めようとする。何でも屋に依頼を出したのに阻むのか……?


「でもおかしいだろ? 専門の人を何人も呼んでおいて全員に今夜は出るなって」

「他にも頼まれた奴がいるのか?」

「ゲン、ちょっと言い過ぎだよ」


 ふーん、なんか面倒臭いな。

 活発少年ゲンのくれた情報は重要な事だろう。彼はシュウに注意されて「ヤベッ」と言いながら自分の口を押さえた。


「なぁ、この街に誰かお偉いさんでも来てるのか?」

「さぁね。来てたとしても僕たち子供や、街の人には内緒でだと思うよ」

「そうかい。情報ありがと――」


 後方に嫌な気配を感じ、指輪に収納した大鎌を片手で取り出して後方を振り返る。それと同時に鎌を振るい、切り裂いた。


「なんだ、お前かよ」


 上半身と下半身が離れたマサキという男。しかし、不死の所為で血も出ずに直ぐに元通りになった。


「お、お兄さん大丈夫なの!?」


 冷静だったはずのシュウという少年が驚きながら彼を心配する。しかし彼は何事も無かったかのように笑顔を見せた。


「酷いなぁ、センパイ。金的の次は真っ二つかよ」

「無敵があるはずのに玉は守れないのは流石に笑う。だが止めない」


 俺たちの会話に少年たちが自分の股関を隠す。大丈夫だって少年ども。俺が金的するのは悪漢だけだら。


「お兄さんとお姉さんって付き合ってるの!?」


 しかし、俺たちのやり取りを聞いていた少女は目を輝かせながら関係を問いかけてくる。


「俺とコイツが? ナイナイ。コイツが一方的に付きまとってるだーけ」

「俺は毎日プロポーズしてるよ。毎回フられてるけど」


 誰が付き合うかよ。それに、付き合うなら美少女が良かったなぁ……

 それでも少女の表情はニヤついている。


「それで何の用だ?」

「水着の忘れ物だよ」


 ここで俺に渡すか?

 しかも子供の前だぞ?

 少女はボールを落として両手で口を隠しながらも興奮しているようだし、少年どもは顔赤くしてるし。活発少年ゲンなんか鼻血まで出してるじゃねーか。

 ……何処かの誰かが言ってたな。女装は男らしい事だって。なら問題ないな(錯乱)。いや落ち着け?


「お前……これを狙ってたな」


 逃げ道は塞がれた。ここで断れば子供達、特に少女の俺と奴の関係の勘違いが加速するだろう。だからと言って、バラバラに切り刻めば子供達のトラウマ(今更)になる。


「さぁ?」

「……今回だけだぞ、変態」


 水着を奪い取る。

 いや、待てよ。このまま逃げれば……ダメだ。少女の眼力が凄い。てかここの子供、なんか怖い。イセタルツのガキ共の方がまだ可愛げがあるんだけど。


「……お嬢ちゃん、着替えられる場所に案内してくれるか?」

「喜んで!!」






 なんでこんなもの持ってるんだよ。それが一番初めに出た感想だった。それにサイズもぴったりなのがキモい。

 しかし、短パンっぽいデザインのものだとは思わなかった。これなら抵抗感は無い。てか、何処かの人妻真祖の着ていた水着のデザインに似ている気がする。


「ビキニタイプだったら半殺しにしてたな」

「お姉さんならオトナなのも似合うと思うのに……でも、それもカッコいいです!」

「オトナなのは絶対に着ないから残念だったな」

「ぶーぶー」


 不満げな少女をなだめながら、俺は先ほどまで来ていたものを指輪に仕舞う。


「そういえばお姉さんはどうして左手だけ手袋してるの?」

「ん? ああ、この手は他の人には見せられねぇんだ」

「酷い怪我なの?」

「そんな感じー」


 奴の元に向かいながら、少女の質問に適当に答える。

 途中で声をかけられるが、無視だ無視。


「そうだ嬢ちゃん、肩車してやるよ」

「本当!? でもお姉さんは大丈夫なの?」

「おう、こう見えても鍛えてるからな。それに肩車を方が速く着くだろうし」


 俺は少女がちゃんとしがみ付いていることを確認すると、砂浜を走り始めた。少し足が砂に取られるが、良い鍛錬になる。

 少女はと言うと、結構楽しそうな声を上げている。

 そしてマサキの野郎を見つけると俺は減速し、少女を下ろした。そして手を握り、一緒に歩きながら奴の元に近付く。


「さて、面白いものを見せてやる」

「面白いもの……?」

「まぁ見てろって」



 数分後、奴は予想通り鼻血を噴水かの如く噴き出して倒れた。

 如何してかって?

 そりゃあ今俺が持ってる武器(容姿)を使ったからだよ。ただ、誤算だったのは少年共の目にはまだ毒だった事だな。1人だけ、少し前屈みになってたし。

ただし水着姿が多いとは言ってない()

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