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05

 金属を叩く音が鳴り響く店内。灯りはなく、炉から溢れる光が明るさを薄暗く保立たせている。


「…………今日は何の用だ」

「あからさまな拒絶はひっどいな~。それでも職人か?」


 鍛冶師グラス。困っている人を善意でよく助けているガタイの良いハゲなのだが、何故か俺は彼から拒絶されている。


「お前さんの武器の扱いが荒いからだよ。しかも体格に合わない大鎌なんてものを扱いやがって……」

「大鎌しか扱えないのは仕方ねぇだろ。ま、今日は別の用で来たんだがな」

「別の用だぁ?」

「おう、今日は左手専用の手袋を作ってくれ」


 グラスは一度、ジッと俺の左手を見ると理由を尋ねてきた。まぁ、見ただけじゃ分らないよな。


「理由はなんだ?」

「これが外せなくなったから隠したい。それとついでに防御とかに使えないかなって」


 突貫で作った手袋を外し、包帯を解く。アームカバー越しでも薬指にある指輪の膨らみが分かるが、一応アームカバーも脱いでおいた。


「お前……結婚したのか? お前を好むなんて物好きがいたもんだなぁ」

「ちげぇよ。丁度ピッタリ嵌る指が左手の薬指だったんだよ。最近は変な奴に付きまとわれているし、そいつの目の前で取れなくなっちまったからマジで最悪だ」

「へぇ~、その変な奴ってどういう人なの? シルヴィアちゃん」

「っ!?」


 背後から急に声を掛けられて驚いてしまった。危うく声が出る所だったがそれは置いておいて、俺は後ろを振り向く。背後にはグラスの娘さんがいつの間にか居た。


「ヴェ、ヴェアか、驚かさないでくれよ……」

「やっほー、シルヴィアちゃん。今日も声を出さなかったかー。ざんねん」


 俺は一度だけ、彼女のイタズラに声を上げて驚いてしまった事がある。その時に出た声が完全に少女のそれだった。その為、今は彼女のイタズラに声を上げて驚かないように気を付けている。


「二度と同じ轍を踏むかよ」

「えぇー、可愛かったのにぃー。ま、いっか。それで変な奴ってどんな人?」


 残念そうだが、諦めていないようだ。

 ははは、面白い小娘だ。いつか仕返ししてやる。


「どんな人つってもなぁ……殺しにかかってきた相手に求婚したり、人の拠点を1日で突き止めたり、人の着替えを窓から覗き見たり、出迎えがないから“最愛の人”の意味を持つ単語を大声で連呼したり……本当にウザい後輩だよ」


 あと、俺が元男でも諦めていない。しかしこのことはグラスにも言っていないので当然ヴェアにも言わない。


「まぁなんだ……お前さん、随分頭のおかしな奴に好かれたな」

「しかもそいつ、美少女ハーレムなんか作ってやがる」

「って事はシルヴィアちゃんも時期にそのハーレムの一員になるんだね!」

「ならねーよ。てか俺は雑談しに来たんじゃねぇ」


 危ない。アイツの事になると何故か熱が入っちまうな……

 急に頭の片隅に奴の顔がフッと浮かんだ。いや、あり得ない。ただ初対面の印象が強くてフラッシュバックしているだけだろう。時期に出なくなる……たぶん。


「ああ、そうだったな。それでどんな手袋がいい」

「取り敢えず籠手みたいな硬度があって、それでも柔らかいのがいいかな」

「……お前さんは本当に運が悪な。前までその素材はあたったが、丁度切らしてる」


 採寸しながら要望を述べると「やっぱり今回もか」と言う気持ちになった。

 確かこの大鎌の時も同じだったな。誰だよ俺の(前にその)素材を使った奴。


「へいへい。いつも通り狩ってくればいいんだろ」

「その分の代金は引いといてやるが、くれぐれもその鎌を壊して帰るなよ? フリじゃねぇからな?」

「分かってるって。んじゃさっさと狩ってくるわ」


 店を出ようとしたら「おい待て」と言われて振り返る。ひらひらと何やらメモ用紙をはためかせているグランを見て、何を狩ればいいか聞き忘れてたことに気が付いた。そしてその紙を受け取って、俺は改めて店を出るのであった。

 てかこの依頼書、マスターからじゃん。え、未来見えんのあの人?





 この世界にも魔物は存在する。しかし、未だ彼らの生態は謎に包まれている。

 野生動物と同じように山や海に生息していたり、渡り鳥みたいに飛び回っている奴もいたり。火山の火口に巣を作ったり。とても不思議である。


「ケートスの皮が素材か……って生息域海じゃん。しかもケートスってでっかいんだろ? 面倒だなぁー」


 当然海用装備なんて持って無い。だから当然陸地で迎え撃つ訳なんだが……あ、ついでに現地で討伐依頼があればそれを受けて討伐報酬と皮以外の部位を売れば金が増える!

 って思考がズレた。


「どうやって陸地まで誘き出すかだよなぁ……」

「あ、大鎌のおねーちゃんだー!」


 一旦拠点に戻る途中、遊んでいた街の子供達に捕まる。左手の事はバレないようにしないとな。


「おうガキ共がどうしたんだ?」

「おねーちゃん結婚したってほんとー?」


 どうして知っているんだこのガキ。


「してねーよ。てか何処でその話を聞いた」

「ヴェアおねーちゃんが言ってた!!」

「そっかー、お姉さん、ちょっと用事が出来たからもう行くね?」

「えー、遊ぼうよー」

「この後仕事で遠出しないとだめだからごめんな。帰ったら遊んでやっから」


 ただ、ガキはガキでもこの街のガキは聞き分けが良い。だから渋々ながらも諦めてくれた。本当に……良い子達だ。





 そして準備が終わり、借りた馬に乗って夜のうちに街を出た。目指すは海魔獣ケートスのいる海。その街の名はスーレイン。俺が拠点としている街、イセタルツから片道三週間(24日)の距離はある。

 あをマスターにケートスの正確な目撃情報を聞いているから目的地の街は間違いないよ。ついでに討伐依頼も受けたから終わった後が楽しみだぜ。


「……分かっていたけれど着いて来るのな」

「監視の任務は本当だからね」

「邪魔だけはするなよ?」

「分かってるって、センパイ。あ、それと1つだけ報告のようなものが」


 並走する彼の雰囲気が、ヘラヘラしたものから一変して、急に落ち着いた。因みに呼び方はセンパイ呼びを許したよ。


「おっとと……ふぅ、レイからの連絡でセンパイの討伐が決まった」


 突然の雰囲気の変化によって、彼の馬が驚き暴れてしまう。それをすぐに宥めて元のスピードまで戻すと彼の口から出たのは俺の討伐であった。


「ハハハッ、こんな美少女に対して討伐だなんて酷いなぁー」

「一応出頭の勧告は出すらしいよ」

「結局死刑は逃れないだろうけどな」

j

 俺知ってるよ。重犯罪起こして自分から軍に首を出してもどうせ奴隷落ちか殺すかが常識だってばっちゃが言ってた。


「あ、殺さないでくれよ? センパイ。でないとこの国の軍事力が急に衰えて最悪滅ぶから」

「わーてるわーてる。俺が人殺しをすんのは転生者相手か、賞金首だけだから……って一応お前もそのリストに入ってるからな?」


 でも殺す手段が無い。寝ている間も無敵と不死は発動するし、毒を無効にするスキルも持っているみたいだしマジでどうしよう。


「それにしてもセンパイは強情だなぁ。まだ一回も名前で呼ばれたことないし。本名の方も教えてくれない」

「……本名はもう忘れた」

「えっ?」


 一応この事は白状しておく。


「何故かは知らんが、転生してから日に日に自分の名前が朧げになってさ。今ではもう、韻も分からなくなった」

「だ、誰かに教えたりとかは……」

「この容姿で男の、しかも日本語の名前を名乗ったらお前はどう思う?」

「あ、変な子だと思います。はい」


 だから名前を思い出せない事にしたら『シルヴィア』となった。てか、人と会った頃にはもう自分の名前が朧げになり始めてたな。


「ただの名前なのにどうしてこう……虚しくなるんだろうな」

「シル――」


 よりにもよってこんな時に名前を呼ぶのかお前は。

 俺は並走奴の首元に鎌の刃を向けて睨む。


「殺さねぇといけねぇ相手にらしくも無い話をした。忘れろ。それと次、名前を言おうならお前がいくらもと通りになっても壊れるまでバラし続ける。いいな?」

「は、はい……」


 ダメだ。こいつの前だと何故か情緒が安定しない。なんで……なんでこんなにウザいのに……

 俺はフードを深く被り、顔の目元までを隠した。

次回水着回()

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