01
息抜きに書きました。
全部で10話を予定しております。
俺の目の前に男がいる。しかもそいつは俺の両手を掴み、鼻の下を伸ばしながらジッとこちらを見ている。キモい。
「俺と……」
日本人特有の黒い瞳。その瞳孔がグッと広がった。とてもキモい。
「結婚を前提に……」
手を握る力がグッと強まる。痛い。装いからして片手剣を扱う軽戦士なのだろう。同じ身長のはずだが、華奢な俺の手足では簡単に振りほどくことが出来ない。
「付き合ってくださぁぁぁぁああああああいいいいいいい!!!!!!!!」
誰が野郎の恥じらいによる赤面告白を求めた。冷や汗が止まらないんだが。
「断る!!」
だから俺は奴の股間を思いっきり蹴り上げた。
どうしてこうなったのか?
それを説明するには長いし濃いので回想をば。
てな訳で時は遡る。
◇
俺は日課の転生者狩りの為の情報収集を酒場で行なっていた。
かく言う俺も転生者なのだが、どうして転生者狩りをするのか。
それは、俺の転生特典が後輩転生者の転生特典よりもショボかったんだよぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!
あ、それと街の人が、転生者に好き勝手されて困っていたからってのもある。
それで俺の転生特典なのだが……まずはじめに俺にステイタスと言う透明な板なぞ無い。そして『鑑定スキル』とかそう言う『スキル』と言うものが無い。確認するにはこの世界の住民と同じ、専用の魔道具で見るしか無いのだ。
その魔道具で分かった転生特典は、初めて手にした得物の戦闘技能がよく伸び、代わりにそれ以外の戦闘技能は全くと言って良いほどに伸び代がなくなると言うもの。
ただ、その時にはもう時すでに遅し。俺は杖だと思って攻撃に使っていた棒は朽ちた大鎌の柄だった。どうりで拾った剣とか振っても直ぐに手から離れてしまう訳だ。
それ以外には言語翻訳程度しか無い。神様絶対に許さないからな。
あ、それともう一つ許せない事があった。俺が目覚めた場所、廃村だったよ。それに、男に転生させて貰うはずが、肩に届かないくらいの長さの銀髪美少女に転生させられたんだ……控え目に言って〇ね。俺の息子返せ。
これ消費者庁に訴えられないかなぁ……
え、そもそも消費してないし、その世界には消費者庁なんか存在しないから駄目?
……くそがっ。
さて、そんなこんなで私怨を含めて後輩転生者狩りを行っていたわけだが、奴に出会ったのはいつも利用している酒場だった。
その日も俺はエール片手に酔っ払いの会話に聞き耳を立てたり、顔馴染みのおっちゃん(大斧使い)やお姉さん(魔法使い)に情報を貰っていた。そこに奴が現れる。
奴は5人ほどの美少女ハーレムを作っており、入店時は結構目立った。そこに酔っ払った馬鹿がダル絡みしだす。だが、酔っ払いをハーレムの一人、赤髪の武闘家の少女があしらった。
あしらわれた(吹っ飛ばされた)酔っ払いは何故か俺の方へ飛んできて、俺はその時思わず大鎌の柄で酔っ払いを叩き落としてしまう。
「おいミーア、やりすぎだって」
「ご、ごめんマサキ。だって気持ち悪かったから……」
マサキ……日本人っぽい名前だな。これはもう確定なのでは?
そう思った俺は彼らのもとに歩み寄った。
「マサキ、誰か近付いてくるよ」
「え、あ、す、すみません! 悪気はなかったんです!」
謝罪が飛んでくるがどうでもいい。俺は俺自身の目的を果たすだけだ。
「ちょっと、マサキが謝っているんだから何か言いなさいよ」
行く手を阻むように金髪の少女がマサキと呼ばれる男の前に出る。
「え、エリー……」
その少女を抑えようと茶髪の少女が金髪の少女の腕を引っ張った。
「でも――」
「転生者、死すべし!!!!」
俺は大鎌を振り上げた。しかしそれが良くなっかたのだろう。大鎌を大きく振り上げた事が原因で、深く被っていたロングコートのフードから顔が顕わになってしまった。
「あ、ちょっ」
俺は慌てて鎌を振るうのを止め、フードの先を掴み深く被り直す。その為に失速してしまい、奴の懐に軽くぶつかってしまった。そして構え直そうとした時にはもう、奴に両手を掴まれてしまった。
「……………」
「ま、マサキ……?」
「マサキ様……?」
嫌の予感がした。しかし振り解こうにも何故か振り解くことが出来ない。
「俺と、結婚を前提に付き合ってくださぁぁぁぁああああああいいいいいいい!!!!!!!!」
そして冒頭の状況に戻ったのである。
「断る!!」
玉に綺麗に蹴りが入り、マサキは泡を吹きながら崩れ落ちた。
「「「「「マサキ(様)!?」」」」」
「て、貞操の危機を感じた……」
俺は握られていた手をマントで拭い、彼らから距離を取って背を向ける。
「や、やるのはまた今度にしよう……なんかすっごい冷や汗が止まらないし……」
「待ちなさいよ」
ミーアと呼ばれていた赤髪の少女がこっそり去ろうとした俺を呼び止める。
「……なんだ?」
「アンタ、マサキを殺そうとしたでしょ」
「……それがどうした」
一瞬で場が殺気立つ。
「ちょ、ちょっとミーア」
青髪の少女が彼女を抑え込もうとする。しかし、エリーと呼ばれていた金髪の少女が青髪の少女の肩を掴み引き留め、ミーアに賛同するようにこちらに敵意の視線を向けた。
「お前達の都合なんぞ興味がねぇ。ただ俺は、そいつみたいな存在が許せねぇから殺そうとした。それだけだ」
「アンタねぇ……!!」
「ミーア様、エリー様、落ち着いて下さい!!」
「「レイは黙って!!」
「っ!? いいえ、黙りません! 私は、あなた達には彼女には勝てないと言いたいのです!!!!」
面白い事を言うと思った。振り返り、顔を確認する。その少女は水色髪の……装いからしてさぞかし高貴な身分であろう。
「……へぇ。面白い事を言うな、お前」
「っ!?」
他4人の少女達が、レイと呼ばれていた少女を守るように前に出た。この反応……貴族か?
いや、その金色のネックレスはこの国の王族で確定だな。
「これは御無礼を致しました。まさかこの国の王族の方だとはつゆ知らず――」
「アンタは何処まで私達を――!!!!」
酒場は既に静まり返っていた。酔っ払いどもも場の空気で酔いが覚め、彼らの方を注目している。
「エリー、俺はもう大丈夫。みんなも落ち着いて……」
「で、でも……」
うっとりとした表情でマサキを見る少女達。なるほど、一人称系のライトノベルでこう言う状況は第三者から見ればこうもウザったらしく見えるのか。
「君、転生者だろ?」
「マサキ!? それって……」
この場で聞くのか。ならば仕方ない。
「根拠はなんだ?」
「俺の転生特典の一つに鑑定系のスキルがあるからだ」
なるほど、それなら分かるか。この世界にある鑑定魔道具で表示されるステイタスにも、転生者の場合は名前の後に括弧で転生者と表記されていた。
「鑑定系なら仕方ねぇか。そうだ、俺は転生者であってる」
「じゃあ何で同じ転生者なのにマサキを殺そうとするのよ!!!!」
私怨、と言うよりは八つ当たりだね。言わないけど。
「その前に。何の目的でお前達がここに来たか当ててやろうか?」
「きゅ、急に何ですか……?」
まぁまぁお落ち着きたまえよ諸君。君達の探し人は俺だろうから。
「転生者が連続して殺されている事件の調査……だろ?」
「なっ!?」
「何でアンタがそれを……」
「それは秘密で。確か……そう、女は秘密があるから美しいって言うだろ? ま、俺は違うけど」
その台詞で酒場に居た客の誰かが大笑いする。
「ガハハハハハッ、張本人が何が『女は秘密があるから美しい』だよ。ガハハハハハッガハハハハハッ」
「ちげぇねぇや。ガハハハハハッ」
それに吊られてその男の飲み仲間も笑い出す。そして終いには静まり返っていた酒場が客の笑い声で溢れ、皆がもとの談笑を再開し始めた。
「ちょ、張本人ってどう言う――」
「(あんにゃろう、後でたまぁ握り潰してやっからな……)続きは外で話そうか」
俺は彼らに退店を促した。
2話目は深夜辺りに更新されます。