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第六話『ルーキー』

 上を見れば、満月が輝いている。

 横を見れば、節句した帝国兵が佇んでいる。

 下を見れば、死体が転がっている。


「街での殺害に加え、これか……」

「帝国への荷馬車も消えたらしいぞ」

「マジか……誰がやったんだろうな」

「わっかんね」


 項垂れながら話合う帝国兵。

 割って入るように、荘厳な足音が聞こえて来た。


「ん───?!」


 驚く帝国兵達。

 咄嗟に敬礼し、その者を見つめた。


「わっ?!───ツ、ツアー大佐!」


 ツアーは手を上げ、敬礼した兵の手を下させた。

 そして、ゆっくりと腰を下げて死体を観察し始めた。


 その様を見て、兵達は目を見合わせた。

 理由は。


「大佐、何故貴方様のようなお人がこんな辺境の地に……」

「きちゃ悪いかねぇ?」

「い!いえ!滅相もございません!!」


 飛ばされた眼光に怯む兵達。

 焚き火の火を篝に、ツアーは言った。


「まぁなぁ。こんな事起こされちゃ来たくもなるでしよ」

「確かにそうですが、流石に貴方様が来るほどでは……」

「ま、一理あるな。見てくれだけみりゃぁな。だが」

「だが?」


 兵達は首を傾げる。

 事の本質を理解できていないようだ。

 ツアーは笑った。


「ほら見てみろ。こめかみに一発。こいつもこいつも。外したことなんてない。

正確に七発。

倒れた方向からするに、あの五十メートル先くれぇの丘の上から、馬に乗りながらの射撃だ。

最後の大尉は首をチョンパ。凄えもんだな」

「……ウプ」   


 近くで死体を見た兵の一人がえづく。

 ツアーは笑った。


「慣れねぇか、ルーキー。まぁおっきな戦は『五年前』に起きたしなぁ。ま。いい。

 ───オラァな。こんな鮮やかで残酷な殺し方する奴ぁ、過去一人しか知らねぇんだ」


 ツアーは息を吸い込んだ。

 兵達の息が、止まった。


「……エクセル・シエル。帝国を裏切った大罪人だ」


 兵達は、息を呑んだ。

 けれどそれで収まらず、一人が驚きのあまり聞いた。


「しかし、彼は戦争中に『死んだ』のでは?死体も発見されていますし……」


 ツアーは嘲笑と共に、熱い眼光を飛ばした。


「───なら、なんで帝国はあいつをまだ追ってる?」


 兵からの反言は、なかった。


「確かに奴は戦争中に死んでるさ。けどなぁ……」


 ツアーは少し俯いた。

 そして、思い出すように、囁いた。


「なぁルーキー」



「───シエル王国には魔法があったって、知ってるか?」


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