第四話「殺すということ」
シエル王国とオーラ帝国との和平条約決裂。
オーラ帝国がシエル王国の財力と武力を恐れた為の戦争だった。
王も、女王も、第二王子も、王女も。
そこに住んでいた民草さえも、虐殺されたという。
けれどその事実はオーラ帝国によって捻じ曲げられた。
改変後の口伝にはこう伝わっている。
オーラ帝国とシエル王国との和平条約は、シエル側の裏切りによって決裂した。
オーラ帝国はその武力でもって応戦、撃退をしたのだが。
しかし裏切りを起こした張本人は、未だ行方不明。
生きていると噂され、未だ捜索されている。
その大罪者の名は『エクセル第一王子』
金髪美少年の仮面を被った───悪魔だと恐れられている。
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ここはオーラ帝国の領地末端らしい。
あまり兵が居ないのは有難いが、同時に本土に近付き辛くもある。
オーラ帝国の出任せにより、シエル王国由来の金髪は忌み嫌われる様になっている。
生き辛い世の中である。
フードを深く被り、人混みを避けて路地裏に逃げ込む。
宿に泊まることに資金は使っていられない。
金を使うなら食料、交通費に使うべきだ。
事実ここは憎きオーラ帝国の領地。
全て盗んでしまえばいい話だろう。
けれど。
悪いのは帝国兵であり、ここに住む市民ではない。
いっその事殺してやりたい。
だが、駄目だ。
私が殺すべきは、仲間を屠った帝国兵。
これは絶対。
さもなくば──────。
「おい、お前」
「───ッ!!」
心臓が大きく高鳴った。
見られては、なかったはず。
何故……と思い、私は振り返る。
けれど、そこで分かった。
声を掛けられたのは私ではない。
近くの路地にいる、誰かだと。
「帝国兵……と、家族───?」
隠れながら近付き、様子を伺う。
赤いトレンチコートを着込んだ、見慣れすぎた姿。
確かに帝国兵だ。
それに恐喝されて、怯え切っている平民。
何がを守る様にするその親の後ろ。
そこには、フードをかぶってはいるが───金髪が、見えた。
(シエル民───!)
「おい平民さんよお、その後ろにいる奴……シエル民じゃねぇよなぁ」
「い、いえ!違います!だから帝国兵さま、どうか───!!」
「は!嘘だな!」
「ぐ───」
帝国兵が平民の親を殴る。
そして庇わられていた子供のフードを剥がし、高らかに笑った。
「ははは!やっぱそうだ!!」
「あぁ───」
帝国兵が子供の首を掴み、空に掲げた。
苦しみ出す子供。帝国兵に躊躇はなかった。
そうだ。
あれだ。
私が恨んだのは。
殺したかったのは。
あの、帝国兵だ。
典型的なクズで助かる。
「やめてください!どうか!どうか!」
「いや、ここで殺す!シエル民は、全てな!」
私は、帝国兵の懐にぶら下がる銃を睨んだ。
あくまでも帝国兵は一人。
そして子供を苦しませて絞め殺すことに固執している。
──────馬鹿で、良かったよ。
私は走った。
戦争で身につけた、音を立てない歩法を駆使して。
するりと銃を抜き取り。
コッキングして弾を装填して。
安全装置を外して。
気付かない帝国兵の膝に一発。
「ぐあっ!な──────」
胸に一発。
子供を離して倒れ込んだ所で。
親に向かって、叫ぶ。
その際にフードが剥がれたが、気にせず。
「目を塞いで!」
「え?!はい!」
驚きながらも、自分と子供の目を塞ぐ親。
よし。それでいい。
「ぐ───お前、こんな事して後悔しても……」
呻く帝国兵の頭を、足で踏んづける。
そして銃口を、躊躇せずに向けた。
「……後悔?そんなモノ、数え切れない程してきたよ。
──────君たちのせいでね」
そして、撃った。
帝国兵を殺したんだ。
後悔はない。
それは、もっと別のところでしてきた。
私は目を塞ぐ親達に大丈夫と言った。
帝国兵の死体を見せない様に、体で遮りながら。
「有難うございます」
そう言うと同時に、親達は私の頭髪と容姿を見て目をまん丸にした。
「───貴方は、まさか……」
「他言無用ですよ。そら、早めに去った方がいい。銃声を聞いた帝国兵が寄ってきます」
「……貴方は、如何するのですか?」
「───貴方達には、知らなくていい事です」
「わかりました」
親は少し俯いたのち、思い出す様に顔を上げた。
「あ!お礼を!これっぽっちしかありませんが───」
差し出されたのはお金だった。
それは決して大きな額ではなかったが。
それでも私は、金塊をもらったかの様な笑みで、感謝した。
「有難うございます」
私は、金髪のシエル民を小さく撫でた。
「では、行ってください」と、囁いて。
彼女らが去っていくのを見届けながら。
フードを被り、背中に居た帝国兵を撃ち殺した。
「──────まずは武器が欲しい。殺して奪って見せようか」