第十七話「戦闘」
相手の銃的武装は無い。
しかし相手は、腕だけにただ一つだけの武装を持っていた。
エネルギーブレード。
以前は帝国軍の試作兵器だったのを耳にした事がある。
赤熱するブレードで空気さえも焼き切ってくる、近接兵器だ。
まず銃弾は当たる。
だが人工皮膚の奥の鉄鋼に覆われている為、弾かれる。
彼らには痛みなどの感覚が無い。
だから怯む事も全く無い。故に、殺戮を繰り返せる。
「ふむ───」
しかしながら、私は機械兵の扱いを心得ている。
相手も人型だ。
相手に関節と言うモノは無いが、腕の可動区域は限られているだろう。
銃では決定打にならない。詰めるとするならば、勝機はあるが───。
一進一退の激しい攻防戦。
しかし私の方には、確かな余裕が存在した。
相手の攻撃は、子供の様に何も考えていない素振りのみだった。
ブン、ブン、と。全てが空回っている。
しかし。
その速さと威力は目を見張るモノがある。
一度振るだけで草木が揺れ、土くれが飛ぶ。
なる程、これが不良品たる所以か。
しかしまぁ、その力の所為で近付けないのだが……。
いや。卑屈になり過ぎたか。
「───私が、どれだけ戦争で鍛え上げられてきたと思ってる」
私は先の戦争で、守られるだけの王から、戦士にまで成った。
所詮ただの素振りに過ぎない攻撃など……。
「───舐めるな。鉄屑如きが」
隙さえあれば。光明さえ見えれば。
貴様の攻撃など、止まって見える───ッ!
「……!」
大きく相手がブレードを振り切ったタイミングで。
私は銃を空中に、全力の力を持って投げ捨てる。
……当然か、相手は能無しなのでその銃に着目する。
その隙を突いて、接近し……。
腕を掴み、足を払い。
転倒した所で、赤熱した腕のブレードを───首に刺す。
「───」
───火花や、回路が次々と焼き切られていく音が無情に響く。
だが手の力は緩めず、逆に強めて行く。
相手の腕のブレードを使い、そのまま首を断ち切る……。
「抵抗はするな、苦痛の死を送りたく無いのなら───」
訴えるように、そう呟きもした。
しかし相手の力は強まる一方で、次第に自身の腕の一本を弾かれてしまった。
ここは女である事が裏目に出た。
けれど立ち直し、そのまま私は全力を賭して力を込め───。
「んッ!」
首を、断ち切った。
……抵抗無し。ブレードも、機能停止を確認。
「ふぅ……」
安堵の溜息を吐き、オイル塗れの手を払う。
そこから立ち上がって銃を取る間もなく、レネがやって来た。
「いやぁ、良い戦いでしたねぇ!ねぇねぇねぇ」
「……お世辞をどうも。兎に角まだ、こいつでやる事があるので」
「やる事?……あっ」
察した様にレネは、迅速に私の視界から消えた。
そして私は、断ち切った野良機械兵の首を掴んだ。
その右眼は、厄介な事に未だ点滅していた。
そして、私にとってはいつもの定型文がその口から流れてきた。
「じ、自爆プロトコル、さ、さど───」
「……首を切り落とされたと言うのに、威勢が良い事ですね」
「ぷ、プ、プロ───」
飽きぬ様に流れる言葉に、私は嘲笑を溢した。
不良品だと言うのに。全く。
「め、メッセージ、を、じゅし───」
「……さよなら。鉄屑」
そう言って首を容赦なく空に投げ、次に銃を構える。
撃つ。撃つ。撃つ。
正確に、三発。
眼球、後頭部、根本の接合部を。
ドサっ。
鈍い音を立てて、地面に落ちる首。
自爆はもうしない。制御中枢を破壊したから。
けれど息を吐いて、私が首への視線を外した直後。
「───!」
再び、壊した筈の右眼が灯り……。
ある暗号を、ホログラムで提示して行った。
……それは、一眼では判別できない言語と、文字数をしていた。
だが私はそれを、目を逸らす事なく見届けていた。
逸らす事が、出来なかったのかもしれない。
「これは……独自言語で構成された、暗号───」
(うっわ何あれ!……私でも解読できないんですけど!!」
そのホログラムを木陰から見ていたレネでさえも、この反応を示していた。
数秒を使って、全ての文字を表示し切ったホログラムは、即座に消滅した。
あれが、何だったのか。
あれは、何の為のメッセージなのかと。
考える間もなく、ある声が響いた。
「───あーあー。ボッコボコにしやがってもー。『ブツ』壊してねぇだろうなぁ?」