親に貰ったダンジョン経営してたら、ストライキが起きました。
「で?どんな経営をしたらストライキに?」
いかにもな雰囲気を醸し出した「指南係」とやらが、俺のダンジョンの入口を舐めるように眺めて言う。
「いやー、衣食住完備、給料もそこらのダンジョンより遥かに良い待遇だったと思うぜ?」
自慢じゃないが、譲り受けたここは「裏ダンジョン」と言うやつだ。謎の自信を片手に喜び勇んでやって来る馬鹿な勇者が掃いて捨てるほどいて、奴らが教会に転送される時に落としていく金だけで楽に暮らしていける。
「なんでここの良さがわかんねえかなあ…」
雇っている奴らは全員、程々のレベルの勇者なら目を瞑っていても倒せる実力者達だ。謳い文句は「簡単なお仕事です!」。
「ちなみに、彼らは何と?」
「『もう無理です』だってさ」
意味わからん。ストライキするなら要求をハッキリさせてくれ。
「不可解ですね…」
「おっ、お前もそう思うか」
指南係は名探偵よろしく考え込み始めた。頭良さそうだなー。
「…ここは元はお父様のものでしたね。その時との違いは?」
「違いぃ?待遇変えてねえし、特に無いと思うんだけどなー」
首を傾げる。本気で思い当たらない。
「ふむ…。ではここでの経営者の立ち位置は?給料を与えるだけ?」
「あー。俺が来てからは俺が一応ここのボスやってる。初めてだしな、真面目にやろうかと思って」
はっ。もしかしてそれがいけなかったのか?確かに上司にずっと見られてるって息苦しいな。納得してしまった。
「もしやあなたのレベルが低いとか、弱点が多いとか。そういう不満かもしれませんね」
「いやいや、さすがにレベルはそれなりだぜ。99だし。弱点は…そうだな、陽の光で力が半分てくらいだぞ。ダンジョンの奥にいれば問題ない…いや俺良いボスじゃん?明らか前のより強えもん」
弱肉強食のモンスター界、強くなきゃ経営なんぞできないのだ。
「なるほど、陽の光、ね」
指南役はサンサンと降り注ぐ日光を仰ぎ見た。
「ん?」
「最近、ラスボスが勇者に倒されたのご存知ですか?」
あー、なんかおっかない勇者らしいな。さすがにラスボスよりは俺のが強いけど、おっかないの嫌いだから裏ダンには来ないでくれ。マジ勘弁。
「怖い世の中だよn」
それ以上紡げなかった俺の言葉が宙に舞う。
最期に入ってきた情報は、鋭い刃の銀色と。
「これでまた最強の勇者に近付きました。ありがとう、馬鹿な経営者さん」