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始まりの誕生日

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 小さい頃は何でもできると思っていた。

 長く悲惨な戦争からこの国を救い、英雄王と呼ばれる父親。

 弱冠八歳にして大人の兵士をも凌駕(りょうが)する剣術を会得し、神の子と呼ばれる兄。

 そんな存在が身近にいたら誰だって自分も何かを成し遂げられる、いや、成し遂げなければならない、そう思うだろう。

 だから頑張った。

 どれだけ痛くて辛くても絶対にあの二人に追いつく、そしてみんなに俺という人間を認めさせる。

 まだ六歳と幼かった俺は無言の圧力に押しつぶされそうになりながら必死で彼らを目指した。

 しか、ある時気付いた。

 無理だ、絶対にあの二人を超えることはできない。


 「あの子には才能がない」


 ある日、父親が母親にそう言っていた。

 わかっていたつもりだった、けど認めたくはなかった。自分でそれを認められるほど強い人間ではなかったから。

 母親、父親だけでなく兄や国民もそう思っていたはずだ。

 でもみんなお前ならできるとか諦めなければきっと、とか言ってきた。

 その言葉を信じてもう少し頑張ることにした。いつか自分もあの二人のようになれると信じて。

 でもダメだった。


 「諦めろ、お前は父親や兄とは違って才能がないのだから」


 そう否定してくれる人は誰もいなかった。ただそれだけで、俺は救われたはずなのに……

 剣術はいつまでたっても上達せず、理解力に(とぼ)しい頭の持ち主である俺に周りのやつらは励ましと期待の言葉を浴びせ続けた。

 どうせ本当はそんなこと思っているはずない。


 「もう、どうなったっていいや」

 

 そう思えた瞬間から自由になれた気がした。


◇◇◇◇◇

 「ロイ様、そろそろお食事のお時間です」


 寝起きでまだろくに返事もできない状態の中、聞き馴染みの無い甘く透き通った声がした。そちらを振り向くと、白く(はかな)げな女性がこちらを見つめていた。


 「申し遅れました、わたくし今日からロイ様のお世話役を担当させていただきますベルと申します。よろしくお願い致します」


 その女は深々と頭を下げ、こちらに向かって微笑むなり部屋を出て行ってしまった。


 この国の王室では十八歳以上の者に専属のメイドが一人つくことになっている。

 そして今日、二月二十二日が王子である俺の十八歳の誕生日。毎年この時期になると俺を祝うために国中で盛大なセレモニーが行われるのだが……

 それにしてもあんな美人なメイドとは、普段から女性と接することを禁じられている王子の俺としては万々歳だ。

 嬉しさのあまり鼻歌を歌いながら身支度をしていると外から重い衝撃音が三度、明るさが訪れてそれほど経たない朝の街に響いた。

 普通なら慌てふためいて外の様子を確認するだろう。しかし今日俺にその必要はない、なぜなら毎年のことだからだ。


 「国民の皆様、おはようございます。今日2月22日は我が国の皇子ロイ・ヘルト様の誕生日です。正午よりセレモニーを行いますのでザーゲ城へお集まりください」


 三発の号砲、そしてアナウンスが終わるなり街中から拍手やら歓声やらが上がった。


 やっぱり今年もやるのか…王子がこんなことを言うのもどうかと思うが正直目立つのは好きじゃない。どうせ出来損ないの王子とか裏で言われているだろうから。

 去年の誕生日は運よく風邪にかかり回避できたが今年はそうゆう訳にはいかない。どうしたものかと考えているとドアにノックの音がした。


 「ロイ、入ってもいい?話しておきたいことことがあるんだ」


 その声は兄であるニノのものだった。彼の両隣には兵隊が立っていた。


 「まずは誕生日おめでとう。ついにロイも十八歳か。いやぁー時が過ぎるのは早いねー」


 「なんだよ。なんかいつもと違うぞ」


 「うん。実は今日から西国へ遠征なんだ。だから伝えておこうと思って」


 この世界は4つの国で支配されている。

 高い軍事力と広大な領土を擁し好戦的な西国、西国に匹敵する軍事力がありながらも平和を唱え戦争を拒む北国、そして軍事力や領土、人口で二国に劣りながらも同盟を結ぶことで何とか持ちこたえている南国と東国。

 ただ、西国による猛攻で南国は壊滅状態にあり、制圧されるのも時間の問題と考えられていた。

 そこで、ある作戦が立てられた。西国の意識が南国に向いている隙をついて西国本土を制圧するという無謀(むぼう)なもの。

 そこで剣術で無類の強さを誇る兄は20歳という若さにしてこの東国軍の最高司令官に任命された。


 「今回の遠征、当分帰ってくることはないと思う。だからロイ、君にこの国を任せる。お父さんの容態が安定しない今、国を束ね、一つにできるのは君だけだ」


 「ニノ様、そろそろお時間です」


 「じゃあ頼んだよ、ロイ。君ならきっとできる、信じてるよ」


 またそれだ。どうしてそうやって俺に何かさせたがる?なんでも完璧にこなし、みんなからも信頼されているお前とは違う。俺ではどうせ失敗する、兄だって本当はそう思っているはずだ。

 俺は慌てて部屋を飛び出し、(まぶた)に滲む涙を(こら)えながらもう二度と会わないであろう兄に向ってこう言い放った。


 「お前は俺にとって最悪の兄だったよ!」


 兄は一瞬驚いた表情を見せた後、微笑みながら俺に向かってこう叫んだ。


 「ロイ!君は僕の自慢の弟だ!」


 兄は最後まで俺を否定することはなかった。本当に俺みたいなやつでもこの国を救えると信じていてくれたのかもしれない。

 兄の訃報が届いたのは4日後のことだった。


毎日更新を目指して頑張ります!

よろしくお願いします!

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