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神官マオは鈍器で女神の教えを広げたい?

 マオの思惑通り、完全に戦意というか戦う意思という物を完膚なきまでにへし折られたオレスティナはそれはもう借りてきた猫のようだった。

 真実の天秤を手にしたマオが尋ねたことには嘘偽りなく大きくはっきりとした声で答えていく。


 むろん、スピリットアップルを食べてしまったこともゲロった。

 なにせ嘘をつけば何をされるかわからない。

 ゲロった瞬間にマオは瞳孔が開ききった瞳で無表情にオレスティナの首を締めてきたわけだが。かなり遅れてやってきたセリムとエルレンティが首を絞められてある顔を見て青くしているオレスティナを見かけ、マオを止めなければオレスティナは抵抗することも出来ずにあっさりと死んでいたことだろう。

 窒息死しかけたオレスティナだがもし嘘をつけば今のが生易しいと感じるであろう責め苦を行われたであろうと直感していた。


「マオのものを食べたんです。どうなるかわかってるんでしょうね……」

『これ以上の酷い目に⁉︎』


 すでにボコボコであるオレスティナに全く容赦しないマオを見てセリムとエルレンティは流石に引いた。

 それだけマオの怒りが凄まじいということなのだが、マオから放たれる圧力はヤバイ。

 それはもう街の住人が本能的に姿を隠すくらいに。

 実は先ほどまでどうやったかわからないが傷一つないギルドマスターが冒険者ギルドを破壊された事について喚いていたのだが、あまりに煩いのでマオが軽く睨みつけるとそのヤバめの圧力を一時的に一手に引き受けたギルドマスターは軽くひきつけを起こした後に白目を剥き泡を吹いて倒れ込んだのだった。


 そんな圧力に晒され、首を絞められたままに一身に受けていたオレスティナはというと、ギルドマスター同様に女性がしてはいけないような表情と白目を剥いて気絶していた。


「責任は取ってもらいますがねぇ」


 白目を剥いたオレスティナを掴んだままのマオは口元を歪め笑い、その笑みを見てセリムとエルレンティは寒気を覚えたかのように身体を震わせたのであった。



 後日。


「なんで私がこんなことを……」


 ブツブツと呟きながら魔法を使い冒険者ギルドを直すオレスティナの姿があった。

 いや、すでに全壊しているのだからこれは直すというよりも建て直しであった。

 そんな彼女の首には首輪が嵌められており、その首輪から鎖が繋がれていた。


「ぶつぶつと文句言わない」


 そんな鎖の先を握るのはどこから持ってきたのかと問いたくなるような大きさのソファーに寝そべるマオであった。


「散らかしたものは片付ける。これは当たり前のことです。ならば、壊したものも元に戻すのが当たり前でしょう?」

「マオだってやったじゃない!」


 納得いかないとばかりにオレスティナは魔法で修理する手を止め声を荒げた。


「魔法を使って壊したのはあなたでしょう? マオは先に手を出してはいません」


 マオがしれっと言い返してきた言葉にオレスティナは唸る。

 マオが間違ったことを言っていないと理解しているが故に言い返せないのだ。どのタイミングでも先に攻撃を仕掛けたのはオレスティナであり、マオから先に攻撃したことはないからである。


「わかったらさっさと直してください。それが終わったら街に出た破損箇所もです」

「私! 魔王なんだけど⁉︎ 魔王使い荒すぎないかしら⁉︎」

「痛い設定の魔王でもなんでもいいですが手を動かしなさい。全部終わったらあなたにはスピリットアップル探してもらうんですから」

「無理難題すぎるぅ!」


 ぎゃあぎゃあと喚くオレスティナをマオがめんどくさそうに眺めているとセリムとエルレンティが呆れたような眼をしながらやってきた。


「やってるなぁ」

「お姉様、建て直し進んでるんですか?」

「いえ、全く」


 涙を流しながら魔法を行使するオレスティナを見やりマオは肩を竦める。

 あまりにも不器用なオレスティナの建物の建て直しはまるで子供の積み木遊びのように稚拙な出来であった。


「で、何かあったんですか?」


 マオはしばらくはセリムやエルレンティと別行動をするということは伝えていた。

 100歩譲ってギルドの崩壊はマオにも責任があるためオレスティナが建物の修理を終えるまでは彼女を監視する予定だからだ。

 当然、100歩譲って責任があるというだけなので譲る気は全くないマオは一切建物の修復には手を貸さず見ているだけなのだが。


「なんか最近、番らしいドラゴンが確認されてな。小さいやつらしいから狩りにいかないかと誘いに来たんだ」

「お肉手に入りますよ! お姉様!」

「ドラゴンの肉!」


 お肉という単語を聞いたマオが瞳を輝かせる。


「それに番だからな。もしかしたら卵も手に入るかもしれないぜ?」

「ドラゴンの卵!」


 言わずともドラゴンの卵も美味と言われる高級食材である。

 マオがさらに瞳を輝かせるには充分な理由であった。


「ほら、行きますよ! ドラゴンの卵を手に入れるために!」


 先ほどまでソファに寝そべっていたはずのマオが一瞬のうちに姿を消し、オフタクの街の出口の方へと歩きながら大きな声で催促していた。


「ちょっ! 引っ張らないで! 首締まる!」


 無論、鎖を握られているマオが動くものだから首輪のついているオレスティナも引き摺られる羽目となっていた。


「お姉様のために頑張ります!」

「ドラゴン倒して金を手に入れてまともな武器を手に入れてやるぜ!」


 こうしてマオは女神の教えを広める気があるのかわからないまま、食欲に忠実にオフタクの街を飛び出していったのだった。

読んでいただき感謝です

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