最強の武器
「ごぶぅ⁉︎」
僅かに見えた隙にマオはメガトンバットへさらに力を込めて横薙ぎに振るう事でオレスティナの横っ腹に叩き込む事に成功し、オレスティナは無様な声を上げる。
「この⁉︎」
しかし、オレスティナもただでやられなかった。痛みで顔を歪めながらも手元の鎌を操り、メガトンバットを鎌へ引っ掛けるようにして上へと振り上げることで空高くにメガトンバットを放り投げる事に成功。
武器が無くなり素手となったマオを見てオレスティナは口元を歪め勝利を確信したかのように笑う。
「武器がなくなったからには私の勝ちね! マオ!」
すかさず鎌を回転させたオレスティナはマオの首筋に巨大な刃を添えそう告げる。
それは勝利宣言だった。首筋に突きつけられた刃はオレスティナが僅かにでも手元を動かせば瞬きをする間もなくマオの首を切り裂き、血の海に沈めることが出来るという宣言だ。
自分の首に添えられている刃へと僅かに視線を向けたマオは深々とため息をつき、身体強化魔法へと注いでいた魔力を倍に増やした。
マオの体が眩く輝いたことで僅かに目を細めたオレスティナの一瞬の隙を突くかのようにマオは無造作に首に突きつけられている大鎌の刃を掴み、振り上げる。
「へ?」
勝利を確信していたためか、それとも握りが弱かったからかオレスティナの手元から大鎌はスポーンという音が聞こえてきそうなくらいあっさりと宙へと飛んでいき、いきなり武器がなくなったことにより間抜けな声と顔を晒したオレスティナ。
そして次の瞬間、マオの手が完全に無防備になったオレスティナの手を掴んだ。
「身体強化魔法に流す魔力を倍にしただけです。この状態はそんなに長く保たないのでさっさとへし折ります」
何をへし折るのか宣言せぬままマオは掴んだオレスティナを力任せに振り上げ、そして叩きつけた。
「オゲェ⁉︎」
顔から地面に叩きつけられたオレスティナは地面を叩き割りながら悲鳴を上げる。
しかし、それでもマオは止まらない。
再度、オレスティナを振り上げ下ろす。
叩きつけられたオレスティナはまた悲鳴を上げるがマオはそんな事は気にしない。全く気にしない。
振り上げ下ろす振り上げ下ろす振り上げ下ろす振り上げ下ろす振り上げ下ろす振り上げ下ろす。
ただ無心に、心をへし折るためにマオはひたすらにオレスティナを地面に向かい振り下ろす。
初めの頃は悲鳴を上げていたオレスティナであったが気を失ったのか徐々に反応が悪くなってきていた。
それに気づいたマオは腕を掴んだままオレスティナを自分の前まで持ってくる。すると目の前には顔から血を流し、白目を向いているオレスティナの姿があり、それを確認したマオはそれに向かって空いている手をかざす。
「ヒール」
短い詠唱と共にオレスティナの体が淡い光に包まれ、顔からの出血が止まり、白目を剥いていた瞳に意思の光が灯り、
「ひっ⁉︎」
目の前にあるマオの顔を見て無意識のうちに悲鳴を漏らした。
「起きましたね? 再開です」
「な、なにを……おぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
尋ねる前に振り下ろされ、地面に叩きつけられるのを再開されたオレスティナは僅かばかりに回復した体力のせいかまた元気に悲鳴を上げ始めた。
マオを起点にしてひたすらに振り上げては地面に叩きつける。たまに横に振り回しながらもやっぱり振り下ろす。
「こ、このいいかげんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
オレスティナも必死に抵抗はしているのだがマオの叩きつけは止まらない。
「マオ気付いたんですよ」
叩きつける。
「最強武器に」
叩きつける叩きつける。
「それは地面ですよ! 叩きつけても潰れない! まあ、地面は割れますけどどこにでもありますから!」
今までで一番の勢いをつけてオレスティナをマオは地面へと振り下ろし、オレスティナの上半身は地面へとめり込んだ。
そんなわけでマオの話には返事などできるわけはなく、体が全く動いていない。
「世の神官は不思議です。なんでどこにでもある武器を使わないのかと…… まあ、マオも今気づいたのですが」
マオはやれやれと首を振る。
そして気付いていない。
普通の神官は片手で人を振り回し、地面にめり込ます程の力を持ってなどいないことに。
こうして、マオが永きに渡って? 探していたスピリットアップルを盗んだというか食べてしまったオレスティナは完全にマオに捕縛されたのであった。




