オレスティナとマオの仲
「し、死ぬ! あれは死ぬわ!」
突然オフタクの街のギルド内に姿を現したオレスティナの姿を見たギルド内にいた面々からは驚きの声が上がる。当のオレスティナはというと力が抜けたかのように膝から崩れ落ちながらも声を荒げながら叫んだ。
その横にはボコボコの黒騎士も転がっており、こちらは全く動く気配すら見れない。
周囲がどよめく中、オレスティナは慌てふためいていた。
オレスティナとマオの仲は長い。
現魔王であるオレスティナであるが年齢はマオとさほど変わらない。そして神殿でオレスティナの正体を知っているのは神官長のみであり、神官長と先代の魔王、つまりはオレスティナの父親は酒飲み仲間であった。
魔王と言っても別段悪さなどしていない先代の魔王は当時、神殿前に捨てられていた孤児であるマオの育児について悩んでいた神官長と育児の悩みで意気投合。
時折神殿に来ては酒を飲み交わす様な間柄になったのだ。
別に女神は神官が酒を飲むことを禁じているわけではないため問題ない。
そんなわけでオレスティナは先代魔王に連れられて神殿には何度も行ったことがあるのだ。
そうして連れられている間に唯一、歳が近いマオとは友達とも言える関係になったのだ。
そうして付き合いが長いマオとオレスティナであるが、それ故にオレスティナはマオがどれくらい怒り狂うかがよくわかっていた。
(ちょ、ちょっとしたジョークだったのにぃぃ! あれが、あの時食べたリンゴがスピリットアップルだったなんて!)
ある日、たまたまマオの留守中に神殿にやってきたオレスティナは我が物顔でマオの私室に足を運ぶと、マオがいないことにがっかりしながらもスピリットアップルが隠された机に備え付けられた椅子へと腰をかけた。
その時、オレスティナは先代魔王に教えられた魔法を使わなければなにも起こらなかったかもしれない。
先代魔王に教えられた魔法は探知、魔力を帯びた物を感知する魔法であった。
この魔法は使えば使うほど感知する力が上がるため日頃から使って置くようにと先代魔王に言われていたオレスティナはマオの部屋でそれを発動。
机の中に隠されている何かを感じ取ると我慢などは出来ないオレスティナは即座に漁ることにし、マオの秘密を暴こうとほくそ笑んだのだ。
結果、見つけたのは当時名前しか知らなかったスピリットアップルであり、現物を見たことがなかったオレスティナはというと「変わったりんごだなぁ」という感想の元、食したのだ。
一応勝手に食べたという負い目から頭文字を書いた謝罪文というかおちょくり文を残し、その場を去ったのだ。
そしてスピリットアップルを食べた事の恩恵を受けたオレスティナはそれを自分の秘められた力が覚醒したと勘違いし、そのパワーアップした力で先代魔王の力を超え、現魔王として君臨し、引き継ぎ業務に忙殺される羽目となりマオに会うこともなく数年の月日が流れる事となったのだった。
「まずいわ! とりあえずは姿をくらましてマオが納得する替わりの物を見つけないと! マオを魔王軍に勧誘するどころか私の命すら怪しいわ!」
無意識に爪を噛むという悪癖を見せながらオレスティナの頭はフル回転していた。
そんなオレスティナの様子を見たギルドにいた冒険者一同は即座に身の危険を感じたのか慌てて荷物を纏めて出口へと向かっていき、瞬く間にギルドの中は閑散としたものになり、残っているのは逃げ場のないギルドの職員のみとなっていた。
そうしてようやく考えがまとまりつつある時に黒騎士が音を立てて立ち上がり、どこからか取り出したボードへとペンを走らせた。
『ここどこ?』
動く鎧、リビングアーマである黒騎士はしゃべることができないために筆記にて疑問をオレスティナに投げかけた。
「オフタクの街よ、いい黒騎士。今から魔力が回復し次第魔王城に帰還するわ」
焦った様子のオレスティナの物言いに首を傾げながらも黒騎士は首を縦に振り肯定する。
いかに魔王と言えどもロストマジックである転移魔法を乱発するほどの魔力はない。
一度転移魔法を使うだけで魔族の中でもダントツの魔力量を誇るオレスティナの魔力が半分を切るほど魔力を食うのだ。
「帰ったら魔王軍の総力を挙げてスピリットアップルの代わりを探すのよ! じゃないと……じゃない……」
「じゃないと?」
「犯人の私がマオにボコられ……」
途中で誰かに聞き返されていることに気づいたオレスティナがそちらへ視線をギギギと首から音がなりそうな動きでゆっくりと振り返った。
初めは黒騎士かと思った。だが黒騎士は喋れない。
そうなると誰が? そこまで思考して振り返ったその先にいた人物を目にしたオレスティナは、
「ヒィィアォォォォ⁉︎」
奇声を発しながら自分が放てる最強の魔法を額に汗を浮かばせ髪が張り付き、肩で息をしている神官マオにたいしてブチかますのであった。




