逃がさない
二話投稿二話目
マオがオレスティナへの質問で「触った」と尋ねたのには意味がある。
真実の天秤は確かに嘘をつけば傾くため嘘を見抜くことができる。
だが問題はその質問を受けた側の捉え方によるのだ。
例えば「リンゴを盗ったか」と尋ねた場合、もし質問された側が「リンゴを盗って食べた」という場合、回答者側としては「リンゴを食べた」という考えに至るものが多く、この場合は盗ったという質問に対して天秤が傾かなかったりするのだ。
故に、真実の天秤を使う際には誤魔化しようのない質問をしていかなければいけないのだ。
そのためマオはオレスティナへの質問でまずは触ったかどうかを確認するためにその質問を投げかけたのだ。
この質問でオレスティナが触ったということがわかればマオの中では確定に変わる。
なにせ、マオがスピリットアップルを隠していたのは部屋に備え付けられている引き出しの隠し扉の中であり、普通には見つけられない物であった。そして神殿の中にいた人物には全員同じ質問をし、誰もマオのスピリットアップルには触れていなかったのだから。
「どうなんですかオレスティナ?」
「ぐぬぬぬぬ」
唸るオレスティナにマオが天秤を片手に詰め寄る。すでに質問に答えようとしないオレスティナはマオの中では完全に黒である。
それでも質問に答えさせ自白させようとするのはマオが暴力……もとい裁きを下すために必要不可欠であるからだ。
「て、」
『て?』
ついに口を割ろうとしたのかオレスティナが小さく呟いた言葉をマオとセリムが復唱する。
「転移ぃぃぃぃ!」
オレスティナが叫んだ瞬間、彼女の足元に輝きながら幾何学的な模様が現れ、輝きを増していく。
それはオレスティナにボコボコにされ倒れている黒騎士の元にも現れており、その魔法陣から溢れる輝きの眩さにマオは驚き、僅かに後ろに下がった。
(てんいってなんなの?)
転移魔法が使える者は少なく、知らない者も多い。それは使用する魔力が膨大な事と緻密な魔力制御が必要な事、更には失われた魔法であるためだ。そして当然マオも知らない。
しかし、マオは直感で悟る。逃げる気であると。
そう判断したマオは輝きが増す魔法陣の上に立つオレスティナに向かい身体強化魔法で身体を強化した腕を逃がさないとばかりに伸ばす。
「目が目がぁぁぁぁぁ!」
「逃がさない」
「ひ!」
マオの手がオレスティナのドレスに触れる寸前、魔法陣からの輝きが眼も開けていられないほどになり、マオも目を閉じる。セリムからはなにやら悲鳴が上がっていた。しかし、今のマオにそんなものを注視する余裕はない。伸ばした腕はそのまま突き進み、オレスティナのドレスを掴んだ。
やがて輝きが収まるとそこには目を抑えて転がり回るセリムの姿と未だに落ち込んでいるエルレンティの姿、そしてマオの手の中にオレスティナのドレスの切れ端が残っているだけであった。




