天秤の力?
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「そう言えば、あなた名前がオレスティナですよね?」
背筋を震わせていたオレスティナへとマオの視線が向けられ、その視線を真正面から受けたオレスティナは背中から汗が流れ出るのを感じた。
「おいおい、マオ。お前こいつと友達なんだろ?」
「そうですよお姉様! お友達を疑うなんて悲しいですよ! それにもう調べてるのではないのですか?」
同じように威圧感に呑まれていて仲間意識でも芽生えたのかセリムとエルレンティは庇うように前に出た。
二人の目から見てオレスティナはどう考えても隠し事が出来るような性格ではないと判断したからだ。
「いえ、まだオレスティナは調べていませんし」
そう告げたマオは神官服の懐へと手を入れると中から手のひらの上に乗るくらいの大きさの天秤を取り出した。
「それは?」
「これは真実の天秤と言われる魔道具です。マオの質問に対して嘘を告げれば天秤が傾くのです」
「なんだかとっても胡散臭いですね」
エルレンティが疑うような眼差しをマオの手にある小さな天秤へと向けているのを見てマオは小さく笑う。
そんな彼女に向かいマオは天秤を近づけた。
「では試しましょうか? エルレンティ、マオがする質問に今から全部はいと答えてくださいね」
「わかりました」
頼みを了承したエルレンティが拳を作り何故か身構えていたがそれをマオは無視して質問を開始する事にした。
「では、エルレンティは十八歳である」
「はい!」
カシャン
「エルレンティは里では優秀と言われている」
「……はい」
カシャン
「エルレンティは里ではみんなに頼りにされている」
「…………はい」
カシャン
それからもマオはエルレンティに質問を続けていった。
エルレンティが答えを返すたびににマオの手に持っていた天秤がなにも持っていないにも関わらず小さく音を立てて傾き、それを見ていたセリムが驚きの声をあげた。
そしてエルレンティも質問に答えるたびに徐々に元気が無くなっていた。
マオがエルレンティの心の傷をえぐるような質問ばかりをしているからなのだが無論、マオは無自覚であり、天秤の効果が本物であることが出来たことにより胸を反らして威張っていた。
「凄いでしょ?」
「凄いには凄いけど……」
セリムは確かに感心していた。天秤の力には。だが同時に震えていた。容赦なく傷を抉るマオの手腕に。
そして傷を抉られ続けた人物はというと。
「どうせ私なんて役立たずなんです…… 胸が大きいだけのただの駄肉エルフなんです……」
膝を抱え、陰気な気配を周囲へと発しながら何かブツブツと呟いていた。
まるでエルレンティの周囲だけ何かじっとりと重い物が漂っているかのようにそこだけ空気が重かった。
「これでこの天秤の力はわかったでしょう?」
「ああ、質問次第で人を落ち込ませるってことがよくわかった」
落ち込むエルレンティを見て、ああはなりたくないとセリムは体を震わせる。
そしてマオは本番と言わんばかりに今まで全く言葉を発さないオレスティナへと体を向け、天秤を近づける。
そのマオの動きを見てオレスティナは顔を青くしながら体を一度大きく震わせた。
「では質問します。オレスティナ、貴方はマオのスピリットアップルに触りましたか?」
そうしてマオは審判を下すべく言葉を紡いだのであった。




