盗っ人には死を
「マオが冒険者になっている理由は盗っ人を捕まえるためですよ」
オレスティナに匹敵するほどの圧迫感をその身から溢れさせながらマオは告げる。
オレスティナのように魔力による威圧ではなく、マオが行なっているのはただの怒気によるものである。まあ、怒りのせいで魔力が体から溢れているのだがそれは無意識である。
食べ物の恨みは恐ろしいというのはマオと知り合ってからよくわかったセリムであったが、今のマオの怒り具合はギルドで食べ物を粗末にしている冒険者を怒る時とは比にならないくらいだ。
それはスピリットアップルは貴重であるがゆえであった。
たまたま森の中でマオは手に入れたとはいえその存在を知る者からすれば命を奪ってでも手に入れたくなるのがスピリットアップルだからだ。
なにせ売れば親子三代まで遊んで暮らせるような大金が手に入るような果実なのだから。
「でもお姉様、そんな簡単に見つかるものなのでしょうか? お姉様は冒険者になってからは日が浅いですが以前より犯人を探されていたのでしょう?」
「もちろんです」
「それで見つかっていないのですし、年月が経ち過ぎているのでは?」
エルレンティの物言いにマオは小さく頷く、そして神官服の懐へと手を入れると中から一枚の紙を取り出した。
取り出したそれをエルレンティへと見えるようにした。
「これはスピリットアップルが奪われた日にマオの部屋に置かれていた紙です。証拠なので神官長に頼んで不壊魔法を掛けてもらっています」
マオが見えるように持った紙には幼い字体で『おいしくいただきました。O』と書かれていた。
「これを見た日にはマオはちょっとばかり怒ってしまいましてね」
マオは僅かに頬を染め照れたよう、だが目が全く笑っていないという奇妙な状態で呟いた。しかし、その現場にいた者はここにいないためその真偽はわからない。だがもし神殿関係者がこの場にいたのであれば誰もが口を揃えこう告げただろう。
「あれはちょっとじゃない。本気だった……」と。
実際マオがキレた当時、マオを抑えようとした神官数名が数ヶ月の間ベッドでの生活を余儀なくされたのだから。一応、命に関わる怪我などはなく身動きが取れないように計算していると思われる程に的確に無力化されていたのだ。具体的に言うならば骨が綺麗におられていた。
「そんなわけでマオは盗っ人を捕まえるまでは冒険者優先ですからオレスティナのごっこ遊びに付き合っている暇は無いのです」
「ごっこ遊びじゃないし! 私、魔王だし!」
「つ、捕まえてどうするのです?」
憤慨するオレスティナを他所に、言葉にされずとも結果は誰が聞いてもわかるものであったがエルレンティは恐る恐るといった様子で尋ねる。
そんなエルレンティに対してマオは清々しいまでのこの日一番の笑顔を浮かべる。
「決まってます。女神様も言っていました」
盗っ人には死を、と告げたマオの顔は暗い笑みが浮かんでおり、その場にいた三人の背筋を震わせたのだった。




