店に入って暗転した
「酷い目に遭いました」
テテの家に一泊した翌日、げんなりとした表情でマオは大通りを歩く。
恐らくは善意であったであろうテテの行為であったのだがマオにとっては心に残る…… 無論悪い意味でのお風呂とゴブリン肉というトラウマを植え付ける事に成功していた。
「ですが善意でしたしね」
お風呂に入れられている間に綺麗に洗われ、さらには新調された神官服、神官帽を被ったマオは上機嫌に歩く。
マオが上機嫌なのは新たに新調された神官服にあった。新しい神官服は以前の真っ白な物ではなく、白を基調とした神官服のあちこちに青い色の刺繍が施されているものだった。
「なんかテテおばさんの旦那さんが"みすりる"とかいう鉱石を使ってるとか言ってた気がするけど……」
魔法銀。
それは長く魔法に晒された事により変質した銀の事を指す。ちなみにかなり高価な物である。
だが今のマオはどうやって石を糸に変えてるんだろう? とう事をしばらく頭を捻って考えていたのだがすぐに諦めてまた歩き出したのだった。
昼間から酔っ払いが歩くオフタクの大通りを興味深げな瞳で見回しながら歩いていく。
というのも他の神官と共に街に来た時は歩き出すとすぐによくわからない方向に歩き出すほどの方向音痴であったマオは他の神官にとっても頭痛の種だったのだ。
「以前来た時は鎖で縛られてたからなぁ」
鎖で縛って歩かされてあんまり周りが見えなかったなぁとマオは思い出していた。
「そういえば、街には冒険を主にする方々がいると聞きました」
人それを冒険者と呼ぶのだがそれをマオは知らない。
冒険者は死と隣り合わせと呼ばれるような職業で、何でも屋のようなものであり、ある程度の実力があれば誰でも就ける職種として認知されている。
実際のところはそうでもあるのだが国からの依頼で遺跡を調査したり、騎士団などと連携をとったりと、しっかりとした仕事があるのだがある程度の基準が満たされていればならず者でもなれる職種柄から粗暴が悪い者が多いと思われているのだ。
「ここかな?」
マオは立ち止まり、見上げているのは店の玄関口に盾と剣が描かれている看板だった。
店の中からはガヤガヤとした喧騒が聞こえて来ており、さらにはゴブリン肉で悲しい思いをしたマオには刺激が強い、いい匂いが漂ってきていた。
「入りましょう!」
冒険者が集まっている店かどうかはわからなかったがマオは空腹に負けて店の扉を叩いたのであった。
「いらっしゃいませー」
扉を開けた瞬間に軽やかな声がマオを迎えいれた。
そして、
「あぶねぇ!」
突然大きな声が店内に響いた。
「へ?」
間抜けな声をマオが上げている間に一瞬にしてマオの視界が黒い物に覆われ、大きな衝撃が頭に走るとマオは意識を手放したのであった。