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人を指ささない

 無慈悲と言えるマオにとっては最大の一撃は黒騎士の構えた大剣、ではなく横から伸ばされた細い腕によって受け止められた。


「ん?」


 完全に砕くつもりで振り下ろしたメガトンバットをその途中で、細い腕の主である仮面をつけた黒いドレスを着た少女に止められたことにマオは眉を潜める。

 全開に近い一撃だったはず? とマオは胸中で疑問符を浮かべていた。


 実際、マオの一撃はトロールを消しとばした時などとは比較にならないほどの力が込められていた。

 そしてその一撃は確実に繰り出されていた。

 その証拠に、メガトンバットを受け止めた仮面の少女の足元が時間を置いて蜘蛛の巣状にひび割れていき、地面を揺らす。


 厄介、そんな言葉がマオの頭に浮かぶ。

 同時にマオの脳内に仮面の少女のほうが黒騎士よりも面倒な輩であるという警告のようなものが疾る。

 その警告に従うようにしてマオは力尽くで少女の手からメガトンバットを取り返すと少女から距離を取るようにして後ろへと下りメガトンバットを構える。


 警戒を露わにするマオを他所に仮面の少女はというとメガトンバットを受け止めた手を暫く眺め、しびれを取るかのように手を振り、具合を確かめるかのように手を握ったり開いたりを繰り返していた。

 やがて手の確認が終えたのか仮面の少女はマオへと向き直る…… わけではなく大剣を油断なく構えている黒騎士へと向き直る。


 正面に立った仮面の少女を不審に思ったのか黒騎士は首を傾げていたのだが、そんな黒騎士に向かい仮面の少女は拳を握りしめる。


「話するって言ったのにいきなり槍を投げつけるバカがいるかぁぁぁぁぁぁ!」


 叫び、黒騎士の胸元へと拳を叩きつけた。

 叩きつけた拳は鎧へと拳の形を作る程にめり込み、さらにはどう見ても少女の三倍はあるであろう黒騎士の足を地面から浮かし、それだけでは止まらずに宙へと吹き飛ばした。


 吹き飛ばされた黒騎士は凄まじい勢いで空高くまで飛んでいき、やがて弧を描いて落下を開始。受け身もなにも取らぬままの状態で地面にぶつかり、土煙を巻き上げた。


「邪魔はしないと言ったから連れてきたのにとんだ邪魔をしてくれましたわね!」


 淑女としてあるまじき大股で黒騎士に向かいながら歩いていく仮面の少女を見てマオは困惑していた。

 自分を攻撃してきたわけだからマオとしては断固として反撃をするわけなのだが攻撃をしたのは黒騎士であって、今マオの前で隙だらけで黒騎士をガシガシと蹴りつけている少女ではないためだ。

 ついでに言うならば、少女が蹴りを倒れている黒騎士へと繰り出すたびに黒いドレスが舞い、黒騎士の鎧が凹んだり欠けたりしているので攻撃しようか迷ってしまっているのである。


「ふう」


 やがて原型が、というか中に入っている人の安否が気になるほどに黒騎士を凹ました少女は一つ息を付くと乱れた長い黒髪を軽く手櫛で整えるとマオの方へと向き直った。


 かなりの距離があるにも関わらず、マオはメガトンバットを構えたまま油断せずに睨みつける。

 マオのそんな緊張など感じないかのように仮面の少女はゆったりと、優雅な足取りでマオに向かい歩みを進める。

 そしてマオのメガトンバットがギリギリ当たらないであろう間合いの外にて止まる。


「久しぶりね! マオ」


 仮面の少女がマオへと指差しながら声高々に告げた。


「人を指ささない」


 仮面の少女がマオを差した指がメガトンバットの間合いに入った瞬間、マオは容赦なく無慈悲にメガトンバットを全力で振り抜いた。


 そしてベキという鈍い音と共に仮面の少女がマオを差した指は普通ならば曲がってはいけない方向へと曲がり、


「ひぃぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その痛さから仮面の少女の口から悲鳴を上げさせたのであった。

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