マオは提案する
「マオの邪魔をしましたね……」
殺気を放つ冒険者達に囲まれた状況でありながらもマオは変わらずというかイラただし気な色をして浮かべた瞳でマティアスを睨む。
「僕の用件が済んでないからね」
話を聞く気がないらしいマティアスは笑う。
「彼らのようなパーティでは君のような神官は勿体ない。ただでさえ神官というのは貴重なんだ。君にはもっと相応しいパーティがある!」
「それがあなたのパーティだと?」
「ふふふ、後悔はさせないよ? なにせ僕は今のランクで収まるような器ではないからね!」
マティアスのランクなど知らないマオからすればどうでもいい話なのでマオの関心はすでに違う所、冒険者ギルドの食事メニューに向けられていたのだがマティアスはそれを自分に興味があるのを必死に隠そうとしていると前向きに捉えた。
そんなわけでマティアスは如何に自分が、そして自分のパーティが優れているかを饒舌に語り始めた。
しかし、肝心のマオはというと全く興味を向けていなかった。
むしろ頭の中は仮面の少女のことも頭から飛び、今から食べる昼ごはんの事でいっぱいである。
「ちょっと、マティアス様の言う事を聞きなさいよ!」
そんな関心を全く向けないマオに気づいたらしい取り囲んでいた女冒険者の一人が声を上げるとその声に便乗するかのように他の女冒険者達も声を上げる。
そんな女性たちをめんどくさげに見たマオは無言で僅かに視線を動かし、しばらくマティアスを眺めていたが何かを思いついたかのように眼を輝かせた。
(絶対ロクでもない事考えてますぅ)
そんなマオの瞳の輝きがたまたま目に入ったエルレンティはそう確信した。
「マティアスさんはランクは何なんでしょうか?」
「冒険者のランクかい? ふふ、僕は銀ランクさ」
マティアスが首から下げる銀の冒険者を示すペンダントを摘み、マオに見えるようにした。
銀、つまりは上から二つ目のランクである。
マティアスが銀のペンダントを出した瞬間、ギルド内にいた冒険者の何人かが悪態をつく姿が見えたのだがマオは気づかなかった。
マティアスは貴族の息子であり、金で今の銀のランクを手に入れているという話は王都の冒険者達の中では有名な話であり、碌に依頼を受けずとも生活できるために冒険者達からは厄介者というか腫物扱いを受けているのだがマティアス本人は気づいていなかった。
金で銀の冒険者ランクを買ったマティアスはマティアスの親へ繋ぎを作りたい貴族たちの緩い依頼だけをこなし、さらにはマティアスの持つお金や容姿につられて集まった輩でパーティを作り上げていた。
普通ならばどんな簡単な依頼であっても所詮は金で買ったランク。ミスを何度かして飽きっぽい貴族のことだからすぐに冒険者など止めると思われていた。
しかし、幸か不幸かマティアスには妙な才能があった。
依頼を受ける前になんとなくその依頼がヤバイかヤバくないかがわかったのである。
結果、ヤバイと感じた依頼を受けないことによりマティアスは依頼を一切失敗せずに連続で依頼を成功さすことができた。
これにより依頼を失敗しないマティアスは図に乗った。
自分には冒険者としてやっていける才能がある。まだまだ上には行くことができる! と。
そして依頼ではないヤバイのが目の前にいる事にマティアスは気付かない。
しかし、マティアスは自慢気であったために気づかなかった。マオの口元が三日月状に嗤っていたこと。だが、マオはすぐにその嗤った顔を普通の人受けしそうな笑顔へと戻す。
「ではこうしませんか? マオの一撃を止めれたらパーティに入ってもいいですよ?」
マオは拳を握り、掲げると笑顔でそう言った。




