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矢は大きい方がいい

「む、無茶苦茶ですぅ……」


 マオの新しい武器であるメガトンバットによる一方的なトロールへの暴力を見てエルレンティはあれが自分に向けられたらと想像して顔を青くしていた。

 聖書を投げつけられた時にも死の恐怖は感じたがあのメガトンバットを喰らう、もしくはかすったりしたら確実にその部位は吹き飛ぶ。

 そう確信が得られるほどの威力をマオは易々と、そして嬉々として出していたのだった。


「がぁぁぁ!」


 自分を見ていない事に苛立ったかのようにトロールは棍棒をマオに注視していたエルレンティへと振り下ろす。

 だが見ていないが視えているエルレンティはそれをギリギリで躱し、棍棒は大地へと叩きつけられ穴を空けるだけとなった。

 その場から飛び下がったエルレンティは背後に背負う籠へと手を伸ばした。


「食らうです!」


 そんな振り下ろしたままの隙だらけのトロールに向かってエルレンティは籠の中から鉄屑を掴むとトロールへと向かい投擲する。

 魔力によって強化された腕力により投じられた鉄屑は先のゴブリンに食らわせたかのように散弾のように広がりトロールへと迫り、少なくない数がトロールへと突き刺さり容易く貫通する。が、貫通するだけであり倒すまでは至らない。致命傷には程遠い傷は瞬く間にトロールの再生能力により煙を上げながら修復され、トロールはなんでもなかったかのように再び棍棒を振り上げ、エルレンティを狙う。


 振り下ろされる棍棒を避けるためエルレンティは今度は横っ跳びに飛び、なぜか籠から鉄屑が落ちないように器用に体を回転させ立ち上がると再び鉄屑を投げつける。


 またも鉄屑の散弾がトロールを襲うがそれが脅威でないということを知ったトロールは防御の姿勢をとる事なく攻撃動作へと移り、エルレンティはまた慌てて避ける羽目となっていた。


「お姉様のように一撃で硬直させるような火力がでません」


 頭を抱えるようにして呟くエルレンティであったが身体強化魔法が使える彼女とマオの身体能力の差というのは今現在の話だけで言えばほぼないと言っていいものであった。

 そして一番の違いは武器にあった。


 エルレンティは弓が使えないがためにマオから学んだ身体能力を強化した状態からの投擲攻撃という物を行なっている。さらには複数の鉄屑を広範囲に投げつける事により多数の敵へと攻撃する事を可能にしていた。


 対してマオが投擲物として聖書を投げつけていた時は聖書自身の重さと硬さ、さらには本人の異常なまでの筋力が相まり、当たれば吹き飛ぶ重い一撃となっていた。

 これはメガトンバットになってからも変わっていない。


 つまり、身体強化魔法で強化されたエルレンティの力の全てを引き出すには鉄屑では不向きなわけであり、トロールを倒すに至っていないのである。


「鉄屑じゃ、小ちゃいから貫通して終わりますし」


 動きの遅いトロールの攻撃を軽々と躱しながらエルレンティは思案する。


 鉄屑では小さいからダメージが入らない。ではもう少し大きな物にしよう!


 そう考えたエルレンティはトロールの一撃をさらに躱し、今度は間合いを取るかのように大きく後ろへと飛び退いた。

 そしてトロールと距離を取ると再び籠の中へと手を入れると取り出したものを構え、今までと同じように力一杯放り投げた。


 今度も躱す必要がないと考えたのかトロールは無防備に距離を詰めるべく駆けていた。

 そこにエルレンティが投げたものが放物線を描きながらトロールの胸元へ吸い込まれるように飛び込み、


「ガァァァァァァ⁉︎」


 続いて自身の体に生じた衝撃と轟音にトロールの意識は一瞬飛び、動きが止まったのであった。


「これなら攻撃になってるですぅ」


 自分のあげた戦果、トロールの胸に突き刺さった大剣を見てエルレンティは笑う。

 エルレンティが投げた物、それは武器屋で捨て値と言っていい金額で買った武器である。無論、捨て値の一品のため、ガタがきていたり錆が浮いていたりと普通に武器に使うのは無理な代物である。

 そう、普通に武器として使うのであれば、だ。


 エルレンティは鉄屑の代わりに錆びた大剣をトロールへと投じ、見事胸元に突き刺したのだ。それも無意識の精霊魔法のおまけ付きで。

 エルレンティの周りに浮かぶ精霊達は無意識の内にエルレンティが念じた「貫け」という希望を叶えるように飛んでいく武器を回転させ攻撃力を上げていたのである。


 結果、肉を抉るようにして回転しながら突き刺さった大剣は今までの鉄屑などとは比べ物にならないほどの傷をトロールへと与える事となり、トロールの再生能力が傷口から煙を上げながら治癒を開始しながら再びエルレンティへと向かい武器を振り上げ歩みを再開し始めた。


 しかし、その距離をエルレンティは詰めさせないと言わんばかりに籠からどこにそんなにはいってたのか? と思うほどに次々と武器を取り出し、トロールに向かい投げ続けた。

 先程までの鉄屑とは桁違いの攻撃が立て続けにトロールへと襲いかかった。

 錆びた斧であったり刃が欠けた剣、そのどれもが普通に使ってはロクに戦えないようなものばかりだった。しかし、それでも武器である。

 そんな使い物にならない武器の数々がエルレンティの矢として放たれ飛来する。

 次々に刺さる武器の数々がトロールへと刺ささっていき、トロールの再生能力をついに追い越し、先程まで上がっていた再生能力が働いていた事を表す煙も上がらなくなり、やがて音を立ててその巨体は地面に伏した。


「なるほどー、やはり矢は大きい方がいいということですねぇ」


 完全に生命活動を止め、ハリネズミのように体の至る所に武器が突き刺さったトロールを見たエルレンティは満足気に笑い、トロールに突き刺さった武器の回収を始めるのであった。

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