いい使い勝手です
神結晶は所有者の信仰心とイメージにより形を形成する。
そしてマオの手にしていた神結晶が鋼よりも高い硬度を持ちながらも聖書の形を取っていたのはマオの信仰心からきたものだったのだろう。鎖はあくまでマオがその時に感じた「落としたらどうしましょ」という不安から付属したにすぎない。
神結晶の形を変えるということは不可能ではない。実際の所は一度定めた形を変えようとする物好きはいなかったというだけなのだが。
だがマオはそんな神結晶の形を変えた。
それも「ぶっ飛ばせない」という理由だけで。神結晶自体に意思などはないのだがこれはあんまりない話であった。
マオが新たに形を変えた神結晶、メガトンバットを振る。
すると近くにいたゴブリンの体の一部が欠損し、血煙が発生する。
メガトンバットに備え付けられた突起物、普通の棍棒やメイスには付いていないそれがゴブリンの肉に突き刺さりフックの役割を果たし、そのままマオの筋力に物を言わせたフルスイングにより突き刺さった部分が抉ぐられ吹き飛ばされているのだ。
仮に突き刺さらなかった場合でもマオの筋力によって繰り出された鈍器はゴブリンの粗末な武器など物ともせずに粉砕し、カキーン! という音を立てながらさながらボールのように吹き飛ばしていく。
まさにメガトンバットはマオのために存在するような禍々しい武器であった。
「絶対にマオを怒らせないようにしないと……」
「お姉様素敵!」
顔を青くしたセリムと頬を紅潮させているエルレンティは正反対の感想を述べながらも手を休めることなくゴブリンを駆除していく。
エルレンティに至っては既に投擲物で戦う距離ではないと判断したのか身体強化魔法を使っての肉弾戦である。拳や蹴りを無造作に繰り出すだけでゴブリンのミンチが出来上がっていくのだ。
「ぎゃぎゅ!」
ようやく自分たちが勝てない獲物へと襲いかかった事に気付いたゴブリンであるが逃げようとするのが既に遅かった。
逃げるにはマオとの距離が近すぎたのだ。
武器を捨て背を向けて逃げ出すゴブリン達であったがその背中にとんでもない衝撃を受け、続けて骨が折れるような感触を受けて倒れ込んだ。
あまりの痛みに悶絶していたゴブリンの横に拳大の岩が転がってきた。
マオがメガトンバットで打ち込んだ岩である。
無論、マオには狙ったゴブリンに向かって打つなんて器用なことはできない。ではどうしたかというとエルレンティの真似をしたのである。
自分よりも巨大な岩の近くにいたマオはそれに向かって全力でフルスイングを行い、岩を砕いたのだ。
砕かれた岩は拳大の大きさの散弾のようなものになり逃げるゴブリンの背後から強襲、背骨を粉砕したたのだ。
「上手くいきました」
草を踏みつけながらやってくる死神の足音を聞いたゴブリンは痛みを訴える体を酷使して必死に逃げようとするのだが遅々として動けない。
その間にもマオは鼻歌交じりで距離を詰め、周りのゴブリンもまたセリムとエルレンティによってトドメをさされていった。
そして足音が止まった。
諦めた? と場違いな勘違いをしホッとした表情を浮かべたゴブリンであったが次に体の横から掛かったとんでもない衝撃により、生涯最後の思考を閉じる羽目となったのだった。
「いい使い勝手です」
最後のゴブリンをぶっ飛ばし、空の星にしたマオはメガトンバットを振り切ったままの姿勢で満足げに微笑む。
以前、棍棒を試したことがあったのだがそれはマオの戦力行使に耐えきれず途中で壊れてしまったこともありマオは不安だった。
しかし、やはり神結晶で作られた武器は壊れるなんてことはなくモンスターの返り血を浴びながらもメガトンバットは一切の凹みや歪みなどがなかった。
「これでトロールも楽勝なはずです」
メガトンバットを一度振り、血を吹き飛ばすとマオは聖書の時と同じように鎖でメガトンバットを肩から下げると上機嫌にセリム達の元へと向かうのであった。




