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全力でやらせていただきます

「マオさん」

「なんですか? マオは食事を取ったばかりですからすぐに動きたくはありませんよ?」


 この言葉からマオが一応は止めるために動いてくれるというのがわかるのだがギルドマスターとしてはいつ建物が崩壊してもおかしくない状況からはすぐに抜け出したいのだ。


「今すぐにこの喧嘩を止めていただければ私から心ばかりのプレゼントがございます」


 絶対にマオなら受けるという自信を瞳に漲らせながらギルドマスターはマオを見る。

 そんなギルドマスターにマオは少しばかり興味を持ったのかきちんと佇まいを直しギルドマスターへと向き直った。


「聞きましょう。ですがマオはお金では動きませんよ?」


 お金はあればあるほどいいと考えるマオであるが、別に使いきれない程のお金を集める趣味はない。

 生きていく上で必要なお金があればいいのである。まあ、マオの場合は本気で食事をすればお金がいくらあっても足りないというのが現実であるのだがそこはマオ自身も自覚しているため、常日頃から腹5分目位に抑えているのだが。

 それでも神殿にいるときにお腹が減った時などは夜な夜な神殿を抜け出し、森の中で食べれる動物を狩って一人でバーベキューをしていたりするような神官であった。


 そうした理由からマオは金銭では動かない。

 それは腐ってもギルドマスターである男が知らないわけがない。


「ええ、マオさんがお金に興味がないのは知っております」


 それ故にギルドマスターがマオへと推すものは決まっていた。


「ですのでマオさんへのプレゼントとしてドラゴンの肉を差し上げようかと思いまして」

「ドラゴンの肉!」


 ギルドマスターの告げたプレゼントの内容にマオは瞳を爛々と輝かせた。


 ドラゴンの肉。

 それは肉の中では最高級と称される肉である。

 マオも当然しっているのだが食べた事はない。そもそもドラゴンが希少であり、なにより強靭であり長寿なのだ。そのせいかその肉は腐らず、鮮度が常にいい状態で存在するため滅多に市場に流れたりしない。


 マオもクエストボードを除くたびにドラゴンの討伐依頼がないかと探したりしているのだが先にも述べた通りドラゴンは稀少な存在。それゆえにそんな依頼は見当たらなかった。

 というかドラゴンは普通ならば軍などが決死の覚悟で挑むような存在であるため街のクエストボードになど依頼で貼られることはないのだがマオはそんなこと知らない。


「私も少量ですが持っておりますのでここを納めていただければと思いまして」


 それなりの財産になるはずのドラゴンの肉を喧嘩の仲裁の報酬に出すというのは散財もいいところなのだがギルドマスターの野望から見れば端金のようなものなのかもしれない。


「いいでしょう! 全力・・でやらしていただきましょう」


 対してマオはというと喜色満面。

 予期せぬ幸運に頰を紅潮させ興奮した面持ちで聖書を構える。

 すでにやる気満々であった。


 嵐のように暴れる二人の間に容易く神官服をはためかせながら双剣を振りかぶるセリムの前に姿を晒す。突然、現れたマオに驚いたような表情を浮かべるセリムへと笑顔を向ける。

 すでに振り抜こうと全力を出していたセリムが放った二筋の斬撃は止まることなくマオの体を切り裂くかに見えた。

 しかし、マオが無造作に迎撃のために片手で振るわれた聖書がセリムの双剣など存在しないかのように容易く砕き、宙へと剣の破片を煌めかせながら舞わす。


「え…… ぐばぁ⁉︎」


 砕かれるとは想像していなかったセリムの間抜けな面に聖書を持っていない方の手で拳を作ったマオは躊躇いも容赦も一切なく、セリムの顔面へと拳を繰り出し、セリムに無様な悲鳴を上げさし昏倒さした。

 それでもマオは止まらない。

 背後からセリムを狙ってエルレンティが投じたであろうナイフやフォークを振り向きざまに片手で指の間に挟み受け止めると、お返しとばかりに振り向いた遠心力を利用してセリムへぶつけた聖書をエルレンティに向けて投げつけた。


 その攻撃はよく見える眼を持っているエルレンティにとっては容易く避けれる物のはずだった。

 しかし、実際にはエルレンティは気づけば床に倒れ腹部にジクジクと広がる痛みから色々と吐き出していた。

 そしてその横には鎖で繋がれたら聖書がズルズルと音を立てながらマオの元に引き寄せられているのが見て取れた。


 なんてことはない。エルレンティはただ腹に聖書をぶつけられただけなのである。


 エルレンティにはマオが聖書を構えた所までしか見えなかった。

 ただでさえ筋力が並外れたマオであるのだが、そこに身体強化魔法を追加することですでに力自慢である獣人ですら驚くほどの力を発揮する。

 そんなマオが喧嘩の鎮圧のために全力を出したらどうなるか?


 顔から血を流して痙攣して女性が見たらドン引きしそうな姿のセリム、腹を抑えて血やらなにやらを吐き出している一応エルフのエルレンティ。


 結果は見ての通り一瞬で静かになるであった。


「では報酬の件はお忘れなく」


 身動きが取れないセリムとエルレンティの服の首元を掴み引き摺りながらギルドを後にしようとしたマオは一度振り返りギルドマスターへと念を押す。

 ギルドマスターはというと残像が残るほどの速さで首を上下に動かし了承する。

 むしろとぼけでもしたら何が起こるかわからない。


 そうしてギルドを去っていくマオ達を無言で見送るのであった。

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