エルフによる害虫駆除
憎憎しげな視線と声音を上げるセリムだったが即座に強烈な威圧感を感じたので体をズラした。
「お姉様に邪まな眼を向けるんじゃない変質者!」
エルレンティが無意識な精霊魔法を纏わせた拳で殴り掛かってきたからだ。
エルレンティの拳をセリムが躱し、拳が宙を舞うたびにギルド内が無残に破壊されていく。
「うわぁぁぁぁ!」
「なんなのよあの人たちぃぃぃ!」
逃げ場がないギルド職員達も涙を流しながら悲鳴をあげていた。そんな惨状の中でセリムは拳を躱しながらも腰からもう一本剣を引き抜き、本来の双剣の構えを取ると今までのお返しとばかりにエルレンティへと切りかかった。
しかし、振るわれた双剣はエルレンティの拳に易々と弾かれ、結果更なる拳打をセリムへと繰り出してくる羽目となった。
「なんなんだこのエルフ!」
迫る拳を双剣でいなし、逸らし、躱しながらセリムは苦言を吐いた。
エルレンティがただの強化された拳打で迫ってくるのであればセリムは苦戦など強いられることはなかっただろう。
そう、エルフが本来覚えないであろう身体強化魔法と本来なら使える精霊魔法を無意識にしか使えないというエルフでなければ。
「うりゃりゃりゃりゃりゃぁ!」
加えてマオのというか神殿式の特訓というか洗脳を施されているエルレンティに後退とか引くとかそういう後ろ向きな思考が存在しなかった。
ただひたすらに前にのみ拳を突き出す。
戦闘技術など微塵もないのだがそれらを無意識の精霊魔法がカバーしているため隙がない。非常に厄介な存在なのだ。
それでもそんなエルレンティに対応できているセリムは流石と言わざる得ない。腐っても青のランクであり二つ名持ちであった。
エルレンティの拳が宙を切り、しゃがみ躱したセリムがエルレンティを殺す勢いで彼女の胸元へと切っ先を突き付けるべく跳ねる。それを見れない位置であるはずなのに視たエルレンティは体を捻り、下半身のみのバネを使い蹴りを繰り出しセリムを弾き飛ばし、床に落ちていたナイフなどを拾い強化された腕力に物を言わせて一挙に投げる。
轟音をあげながら飛ぶナイフに気づいたセリムは蹴られた腹を押さえながらも横っ飛びにて躱す。その僅かな後に先程までセリムがいた場所には巨大な穴が出来上がっていた。それはナイフなどを投げたくらいでは出来ないくらいに大きな穴だった。
「殺す気か!」
そんな穴を見てセリムは自分もエルレンティを殺そうと剣を振るった事など忘れて顔を青くして叫ぶ。
おそらくはナイフが自分に当たった場合を考えたのであろう。
「お姉様に近付く害虫は滅します」
再び床に落ちているナイフなどを拾い、彼女にとっての矢を補充しながらエルレンティは静かに告げる。
その声音になんとなく食事をダメにされた時のマオと同じ雰囲気を感じ取ったセリムは知らぬ間に無意識に後ろへと一歩下がった。
そしてエルレンティの手が振るわれ幾つもの煌めきがセリムへと迫った。
風切り音に反応したセリムが双剣を閃かせて迎撃する。
剣が振るわれるたびにナイフやフォークは両断され、破片を周りに撒き散らしていくがセリムには傷一つ付かない。
それを確認したエルレンティは舌打ちを軽くすると先ほどよりも多い魔力で体を覆い叩き潰すべく、セリムに向かい駆け拳を構えた。
『おおおおおお!』
それを迎え討つべくセリムもエルレンティと同じように雄叫びを上げ、双剣を煌めかせるのであった。




