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エルフはブチギレる

「わぁぁぁぁ!」


 もうマオにとっては聞き慣れつつあるエルレンティの悲鳴が草原に響く。

 しかし、初めてマオと会った時と同じように転げ回るようなことはなく、ましてやモンスターに一方的に攻撃されているわけでもない。

 エルレンティは凄まじい速度で草原を駆ける。よく見るとエルレンティの脚は輝いており、魔力が見える者が見ればなんらかの魔法が行使されているのがわかるだろう。

 モンスターからある程度の距離をとったエルレンティは砂埃を巻き上げながら停止すると落ちている小石を拾い上げ、全力でそれをモンスターの群れに向かい投げる。

 狙いなどあったものではないのだが、密集してエルレンティを追うモンスターには幾つかが当たり、破壊音が響く。

 見るとエルレンティの脚の輝きは消えており、代わりに石を投げた腕が輝いていた。

 エルレンティは脚にかけていた部分強化魔法を僅かな間に腕へと掛け直していたのだ。

 それは先程マオの指導の元でやっていた強化より格段に早く行われていた。


 石を拾い、投げつけ、モンスターを爆散させていく。マオが投げた時よりも爆散する大きさは小さいのだが遠距離からの攻撃とか考えるのであれば充分、いや、オーバーキルである。


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 しかし、大軍を引き寄せるフェロモンを発してるのかと同郷のエルフにも笑われていたエルレンティは必死である。

 モンスターに囲まれるというのは普通ならば死を意味する。

 郷の近くの森では同じようにエルフが一緒にいたから問題はなかった。冒険者になってから追われたのはたまたまマオが助けてくれたので助かった。

 だが今はマオは助ける気が全くない。

 すなわち、オーバーキルであろうがなんであろうが殺さなければ助からないのである。


(ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ! 死にたくないですゥゥゥゥ!)


 側から見れば余裕の戦いであるのだがエルレンティの心には一切の余裕がなかったのだった。


 いくつも仲間がミンチにされたことによりモンスター達も気づいた。この獲物はまともに数で押すだけの戦いでは勝てないという事に。

 故に今までは一丸となって攻めてきていた動きが変わり、三方向へと別れ、エルレンティを囲むように動き始めていた。


 そしてそれは目の前の敵を消し飛ばす事に必死になっていたエルレンティは全く気づかず、いつの間に前からだけてばなく、横や後ろから攻撃され始めた事によりようやく気づいたのであった。


「か、囲まれてる⁉︎」


 周りをよく見ることのできる瞳をしっかりと使っていればこんな事態には陥らなかったのだが余裕がないエルレンティには無理な話だった。

 ゴブリンが振り下ろしてきた巨大な棍棒を強化した腕で受け止める。しかし、そのためにガラ空きになった腹に向け別のゴブリンが横薙ぎに棍棒を叩きつけ、エルレンティは小さい悲鳴をあげて吹き飛ばされた。


「い、いたぃ!」


 吹き飛ばされ草原をしばらく転がされたエルレンティであったがお腹を抑え、瞳に涙を浮かべながらも即座に起き上がる。

 本来ならば大した防具も身につけていないエルレンティにモンスターの攻撃が当たれば痛いで済まないのだがエルレンティは思ったよりタフだった。


 しかし、モンスターに囲まれているエルレンティは前の相手をしている間に後ろから攻撃されるという悪循環におちいり、今や完全に袋叩きと言える状態であった。


「やっぱりモンスターを引き寄せる何かがあるのでしょうか?」


 エルレンティからかなり離れている場所からマオは袋叩きに合うエルフを見ながら呟いた。

 マオの方にはモンスターが一匹も寄ってこなかったのだ。


 エルレンティはひたすらにモンスターに遊ばれるかのように小突かれ続けていた。

 生きがよく、悲鳴を上げ続ける獲物をいたぶりモンスターたちはゲラゲラと笑う。

 そしてゴブリンがたまたま振るった棍棒がエルレンティの頭へと当たり、同時に彼女の頭の中でぶちりと何かが切れるような音が響いた。


「な、に、するんですかぁぁぁ!」


 そしてダンジョンでスケルトンに追いかけ回され続けたせいかエルレンティのメンタルが少し、いや、かなり歪んでいた。

 先ほどまで怯んでいた獲物(エルレンティ)がいきなり吠え、目を血走らせながら威嚇してきた事によりゴブリンは怯んだように一歩後ろへと下がった。それは僅かな後退であったのだがキレているエルレンティはその隙を逃さずに部分強化を腕に施し、ゴブリンに向かって飛びつくとその輝く腕でゴブリンの顔面を殴りつけた。

 途端、爆発音と共にゴブリンの顔面が木っ端微塵に吹き飛んだ。


 エルレンティは飛びついた勢いのままで破壊したゴブリンの首無し死体の上を飛び、体を丸めて地面に転がり込み、すぐさま起き上がると同時に地面の小石をいくつも拾い上げ、それらを全てを同時に投げた。

 散弾のように広がりながらも部分強化魔法を帯びた腕から投じられた小石は恐ろしい勢いで飛び、まだ生きているモンスターの群れに次々と飛び込み、小さくない悲鳴を上げさせる羽目となった。


「もう怒りましたよ! エルフを怒らせるとどうなるか教えてやります!」


 全身を強化魔法の輝きで覆ったエルレンティが魔力で髪の毛を逆立てながら怒りの形相で宣言したのであった。


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