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マオは蹴り飛ばす

「さ、立って練習しますよ」

「ウごぉ…… はぃ」


 マオに殴られた腹を抑えながら蹲っていたエルレンティは色々と吐き出し、汚れた口を拭いながら立ち上がった。

 本当ならもう少し蹲り、体力の回復を図りたかったのだが、マオが無言で再び魔力を込めた拳を上に掲げたために慌てて立ち上がったのだった。


「さて、魔力を纏った拳を受けたことで魔力の流れがきっちりと見えるでしょう」

「ええ……魔力の流れみたいなものが見えます」


 魔力を感知するというのと魔力を見るというのは似ているようで全くの別物である。

 前者はなんとなくあるというのがわかるもので後者は目に見えてわかるのだ。

 一般的には魔力を関知する者は多いのだが、見える者は少ない。ましては感知し、見ることができる者はさらに少ないのだ。

 しかし、神殿の神官長に過酷な修行をつけられた神官たちはどちらも習得していた。無論、マオもであるが。

 それを聞いたマオは満足気に笑みを浮かべる。


「なら次は体の魔力を感じて、その魔力を腕に集めるのです」


 マオが実際に腕へと魔力を集めてエルレンティに見せる。それを見たエルレンティが唸り声を上げながら腕へと力を込める。するとゆっくりとだが魔力の輝きが腕へと集まっていく。

 じんわりと額に汗を滲ませながらエルレンティはマオの何倍もの時間をかけてようやく腕へと魔力を集め終えた。


「で、できました」


 ゼイゼイと息を荒げながらめエルレンティは魔力によって輝く腕をマオへと見せるように上げる。


「まあ、まだまだ魔力の集め方が雑ですし、いっそ神官長にでも預けて魔力の使い方を教えてもらってもいいかもしれません」

「却下です! マオさんの言い分を聞いていると絶対に虐待ですよ!」

「ですから女神様の愛ですって……」

「洗脳です! 明らかに悪質な!」


 マオが首を傾げているのだがエルレンティは声を大にして否定してきた。


「じゃ、それで訓練をしましょう」

「え……」


 しかし、マオにとってはそんな事は些細なことのようであっさりと会話の流れをぶった切りエルレンティを絶句させる。


「今までのはあくまでも準備段階。今からそれを」


 マオはエルレンティの輝く腕を指す。


「使い方の練習です」

「練習?」

「ええ、的ならたくさんありますので」


 マオは笑い、エルレンティの腕を指差していた指を今度はエルレンティの背後を指差すように動かした。


 エルレンティが機械人形のようにギシギシという音を立てながら振り返ると、モンスター、オークやオーガ、ゴブリン等がマオたちに向かいヨダレを振りまきながら駆けてくるところだった。


「ひぃぃぃぃぃぃ⁉︎」


 砂埃を巻き上げ、殺気を纏いながら駆けてくるモンスターの群れにエルレンティは悲鳴をあげた。


「モンスターの大軍はあなたをご所望のようです。さ、石で迎撃してください。なんなら強化した腕で殴りつけてもいいんですが?」


 エルレンティの悲鳴が上がっている間に彼女の後ろへと近づき、マオは爽やかな笑顔を浮かべてエルレンティの背中を足で蹴りつけた。


「マオさん⁉︎」


 蹴り飛ばされたエルレンティはお尻を高々と上げたままの姿勢で驚いた表情を浮かべ、顔だけは後ろのマオを振り返った。

 マオはそんなエルレンティに笑顔で手をひらひらと振り、


「がんばってください」


 激励を送ったのであった。

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