マオは確信する
「な、なんです⁉︎」
背後から走ってくるスケルトンの足音以外にもなにかの音が聴こえてくることに気づき、エルフの耳をピクピクと動かしたエルレンティが反射的に背後へと振り向き、そして横に数歩ズレた事は奇跡的だった。
エルレンティが先程まで走っていた空間にジャラジャラという音と風を切り裂くような鋭い音を響かせながらながら通過していく。
エルレンティの優れた瞳はその通り過ぎたものが悲しい事にすでに見慣れた鈍器であり、エルレンティの前を走っていたセリムの背中へと寸分の狂いなく直撃するのを見た。
「おごぁぁぁぁぁぁぁぉ!」
背後からの一撃に全く反応できずミシミシと軋む音を響かせてセリムは肺の空気を全部吐き出し、そして聖書に吹き飛ばされるようにして悲鳴を鳴り響かせながらダンジョンの道の遥か先まで吹き飛ばされていった。
「あ、あれはマオさんの武器!」
セリムを吹き飛ばした聖書が再び鎖の音を鳴らしながら背後へとスケルトンを粉砕しながら戻っていく。
そうしてスケルトンが粉砕され、出来上がった空白のスペースへと眼をやったエルレンティは見たのだった。
走りながら再び聖書を振りかぶった笑顔のマオの姿を。
「ひぃ! なんなんですか! マオさんは何がしたいんですか!」
必死に逃げるべく再び前を向いて必死に足を動かすエルレンティ。
またもや投じられた聖書がスケルトンを次々に粉砕していく。しかもそれは確実に走るエルレンティを捉えるような軌道だった
「ひぃぃぃ!」
悲鳴を上げて駆けるエルレンティ。
それに迫るマオの聖書であったがエルレンティはそれが当たる寸前に背後を振り返ることもなく僅かに体を屈めることで攻撃を回避し、聖書はエルレンティの遥か前の地面へと突き刺さるだけとなったのだった。
「あら」
それを見ていたマオは少しばかり感心したように声を上げていた。
マオの考えではエルレンティの体のどこかしらに当たると予想して投じたのだが実際には擦りもしなかった。
「背後も振り返りませんでした」
背後を見て避けたというならばマオは疑問にすら持たなかっただろう。だがエルレンティはそれなりの速度で迫るマオの投じた聖書を見る事なく避けたのだ。
これはおもしろいとマオは笑う。
アンデットと対峙して発現する魔力というのは何も神聖魔法だけではない。あくまで神聖魔法を習得した者だけが神官としての資格があるだけで、他の魔力、固有能力を得る者もいる。
だからこそマオはエルレンティがなんらかの能力に目覚めたことを確信する。
「後はなんの能力かですわ」
数が減ったスケルトンが襲いかかってくる中で、鎖を引っ張り聖書を引き寄せながらマオは笑う。さらには神官服をはためかせながら襲ってくるスケルトンに対して拳打を駆けながら振るいスケルトンを粉砕して前と進む。
戻ってきた聖書を片手で掴み、それを再びエルレンティへと向かい投げつけ、ついでにスケルトンを砕く。
大群で無くなりつつあるスケルトン達はすでに小道へと逃げるように入り込み、マオからも前を走るエルレンティの姿が見えるようになりつつあった。
しかし、迫る聖書をまたもエルレンティは背後からの攻撃を見ずに躱す。
(魔力による視界の拡大? ですがそれでしたら背後からの攻撃に気づかないはずです)
戻ってきた聖書を掴み、マオは首を傾げる。
(ま、対峙したらわかりますわ)
しかし、元からあまり考えるのが得意ではないマオは直接的に確かめることを決定する。
マオは使える魔法の中からあまり使わない魔法による身体強化(翌日筋肉痛が酷いため)、身体強化魔法を自身へと掛ける。
するとマオの足が淡い光が包み込み、それを見たマオが力を込めて一歩足を踏み込む。
途端、地面が爆発したかのように爆ぜ、土煙を巻き上げたのだった。




