教育が必要です!
「あのマオさん」
冒険者ギルドの一角でお茶を飲んでいたマオにエルレンティは声をかけた。
マオはエルレンティの声を聞き、手にしていたカップをテーブルに置くと純白の神官服を着たマオはさながら天使のような和かな笑みを浮かべてエルレンティへと目線を下げた。
「どうして私は縛られたままなんでしょう」
エルレンティは冒険者ギルドの床にまるで罪人であるかのように全身を鎖で縛られ身動きが取れない状態で転がされていた。
エルレンティの服装はマオとは違い血まみれのままの服であり、時間が経過したせいか所々が赤黒く変色していた。
「あなたには教育が必要です」
そんなエルレンティの質問には答えず、マオは再びカップへと口をつけるとお茶を一口飲んだ。
「ええ、あなたには教育が必要です」
「なんで二回言ったんですか……」
「エルフなのに弓は使えない、さらにはそれをカバーする技能も持たない」
エルレンティの呟きは無視された。
「おまけにモンスターに寄られるというセリムさんと同じような体質。あなた、神官だったら見習い段階で死んでますよ?」
「え、神官ってそんなに危険なものでしたか⁉︎」
「ええ、かく言うマオも三回くらい死にかけました」
「モンスターを軽々と蹴散らせるマオさんが三回も⁉︎」
無論、普通の神殿、プレンティ神殿の神官ならそんなことはない。
だかしかし、マオが言う神官というのはあくまでも自分基準の神官であり、もし他の神官が今のマオのセリフを聞いたのであれば断固として違うと叫んだであろう。
「というわけで教育です」
「あの…… 何をする気なんてですか」
マオがゆっくりと立ち上がり、自分に向かって近づいてきた事にエルレンティは悪寒を覚えて体を震わせた。
それは周りにいた冒険者も同じだったのか身体をぶるりと震わせ、周りを見渡し異常がないかを確認し、マオを発見すると距離を取るかのように席を移していた。
「なぁに、簡単な事です。マオが昔シスターによってやられたオシオキ…… もとい愛を広めるためにするだけです!」
「ひぃぃ!」
エルレンティは恐怖した。
マオの言葉ではなく、マオの全く笑っていない瞳を見て。
直感でわかってしまうくらいにマオは本気だった。
「ど、どうする気なのです!」
身動きが取れないながらもエルレンティは必死に体をくねらせてマオから距離を取ろうとしているのだがさして効果は見られなかった。
「行きますよダンジョンに! 愛のために!」
口元に暗い笑みを浮かべたマオを見てエルレンティはあまりの恐怖から意識を手放したのだった。




