駄肉をうつ
セリムが未だに遠距離攻撃の仲間を集めるのを諦めず、マオが一人で依頼を受け始めて更に数日がだった。
しかし、マオは一人で依頼を受けているのであるがギルドにいる連中からはそうも見えない光景がギルド内には展開されていたのだ。
「待ってくださいマオさん! 私も一緒に行きますから!」
マオの名を大きな声で呼びながら慌てるようにしれギルドの入り口に向かい走るのはエルフだ。
しかも容姿が整った者が多いエルフの中でもさらに美人と言われるような容姿のエルフがである。
ギルドの中にはそんな彼女に魅了されたかのように惚けた表情を浮かべてエルフを見ている者も多い。
「エルレンティ、マオはあなたとは依頼を一緒にうけていません」
そんな他の者を魅了してやまないエルフ、エルレンティに対してマオは面倒なのが来たという目線を一つ送り、無視して入り口を潜る。
「そんなぁ! 私とマオさんの仲じゃありませんか! もっと私とお話ししましょう!」
マオより頭二つ分ほど大きいエルレンティがマオを背後から抱くようにしてマオの動きを止める。
その時、たまたまギルドの入り口から入ってきた冒険者が思わず鼻の下を伸ばし、次いですぐにマオの顔を見て青くしてそそくさとギルドの中へと入っていった。
「なんの仲ですか」
マオは頭上に乗る油の塊を憎々しげに見上げながら問うた。
先のエルレンティの巨大な胸がエルフ特有の薄い服装から垣間見えた事で男性の冒険者は鼻を伸ばしたのにマオは気づいていた。
そしてそんな巨乳を頭の上に乗せられたせいで額に青筋がうっすらと浮かんでいたマオを見て慌てて逃げたのだ。
「同じ冒険者仲間ですよぉ」
間の抜けた声を出しながらエルレンティは体を揺する。するとマオの頭の上の胸も揺れてより一層マオを苛立たせるのだ。
エルレンティは周りの温度が僅かに下がっていることに気付いていなかった。
勘のいい冒険者は慌てたように依頼を受けたり、お金を払ったりしてギルドを後にし、自分に被害が来ないようにしているのだが。
「それにマオさんは小ちゃいじゃないですか? 小さな子は仕事ばかりしていてはいけません」
エルレンティ的にはおそらくは善意であったのであろう。しかし、マオにとっては違う。
エルレンティが告げた小ちゃいというのは身長を指していたのだが、マオの耳には胸のサイズの事に聞こえたのだ。
マオの胸は別に大きくもないが小さくもない。いたって普通、平均的なものと言えるだろう。
しかし、普通なものというのは近くに異常な物があれば色褪せて見えるものである。
周りの視線がマオの頭の上に乗るエルレンティの巨乳に向き、そしてその下にいるマオの胸元へと向けた後にそっと視線をそらしていた。
「やん!」
勢いよくマオはエルレンティの方へと振り向いたためにマオの頭から巨乳はこぼれ落ちた。そしてすかさずマオは手を上げ、エルレンティの揺れる巨乳に向かいビンタを食らわした。
「い、いたい! なにするんですかマオさん! ひぃ……」
胸を叩かれた事により胸を手で庇うようにして後ろに下がったのだが、その際にマオの顔を凝視してしまい僅かに小さく悲鳴を漏らした。
マオの表情はそれはそれは一種の芸術品と例えてもおかしくないほどに天使のような笑顔を浮かべていた。
そして無言でエルレンティの胸を平手で叩く。
「ちょ、マオさん……」
叩く叩く叩く叩く。
しかも無言で。
初めはペチペチという可愛らしい音だったのだが、時間が経つと共に音がベシベシへと変わっていく。
「痛い! 痛いですぅ!」
胸をかなりの力で叩かれているエルレンティはついには涙を流し、声をあげるのだがマオは変わらず笑顔のまま、全く笑っていない瞳のままで叩き続ける。
「この駄肉?駄肉のせいですか?」
なにやらブツブツマオが呟き始めたのだがその声はエルレンティの痛みからの悲鳴に掻き消され、エルレンティはその後一時間近くマオに胸を叩かれ続けたのであった。




