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そのパンはゴブリンも殺せるらしい

 食事を台無しにしたセリムを完膚なきまで叩き潰した翌日。

 マオはいつも通りにギルドへと顔を出し、薬草採取の依頼を受けていた。


「討伐系の依頼の方が報酬がいいですし、マオさんならそちらの方が良いのでは?」と受付嬢から勧められたのだがマオが受けたのは薬草採取である。


「やはり神官は無闇に暴力を振るう存在ではありませんからね」


 昨日、自分がセリムに行った事などは別件と判断しているのかマオはそんなことを誰に言うわけでもなく一人呟いた。


 そしてやってきたのは帰らずの森近くの草原。

 すでに何度も受けた薬草採取の依頼。方向音痴のマオであるが流石に何度も来れば多少は覚え、どこに必要な薬草があるかはなんとなく把握しているのである。


 依頼に必要な薬草を生えてる分、全てを取り尽くすのではなく多少は残しながらマオは一人黙々と薬草を採取していく。

 それは太陽が真上に来るまでの間続けられ、長い時間同じことを繰り返したマオであったがさすがに無尽蔵の体力があるというと訳ではなく、休憩を挟むべく大木の木陰へと腰を下ろした。


 そして背負っていた鞄から取り出したのは買っておいた昼食である硬いパン、長い黒パンであった。


 バリガリゴリボリグシャァ!


「しかし、このパンは味気がありません」


 相変わらずパンとしてはありえない咀嚼音を立てているにも関わらずマオは普通の顔をして食べていた。


「このパンはゴブリンすら殺せるという硬さらしいですが」


 まだ手元にある黒パンを口へと放り込みまた凄まじい咀嚼音を上げる。


「試そうにも今日はゴブリンが出てきませんし」


 残っている黒パンとは別のゴブリン撲殺実験用に持ってきた黒パンを手に残念そうに呟きながらもマオはそれで素振りをしていた。しかし、お腹が鳴ったのでそれも齧る。


「女神さま。今日の糧に感謝します」


 パンと水でお腹を膨らませたマオは手を組み、目を閉じて祈っていた。

 そしてしばらく祈った後に目を開いた後にマオは空を見上げてた。


「今日はいい天気ですね。こんなにもいい天気なのでしたらもっとちゃんとした物を食事として準備をしておけばよかったです」


 風が頰に当たるのを感じながら再び瞳を閉じた。

 しばらく風を堪能していたマオであったのだが僅かばかりに周りが騒がしい事に気付いた。


「なんでしょうか?」


 その騒がしさの理由を探すべく周囲へと視線を巡らす。


 しばらく周りを観察していたマオであったが、その原因らしきものを発見したのか表情を僅かばかりに歪ませ、そして距離を取るように無意識に後ろに下がった。


 マオが目にしたもの。それは、


「ひぃぃぃぃ! 来ないでくださぃぃぃぃ!」


 ゴブリンとスライムの群れに追いかけられ、悲鳴を上げている長耳族、エルフの女性であった。


(あ、これは黒パンを残してたら使えたかもしれませんね)


思ったことはどうでもいいことだった。

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