仲間がいない方が楽
「ふー、セリムさんがいないと仕事が捗ります」
マオはスキップをするような軽快な足取りで冒険者ギルドの入り口を潜る。
なにせ、セリムときたらやたらと騒ぐのだ。
しかも、別段森の中でしか取れないような薬草ではなく普通の薬草を集めるクエストしか受けていないはずのマオであるがセリムが一緒にくると必ずと言っていいほどにモンスターから襲撃を受けるのだ。
そんなセリムがパーティメンバー集めのためマオ一人でクエストを受け始めて数日かたっていた。
聖書をぶん投げる武闘派神官と街の一部から噂されるマオであるのだが一応は神官。無意味な殺しはやらないのだが襲われたのであれば話は別。
聖書を叩きつけて襲ってきたモンスターを返り討ちにしていたのである。もちろん命はきっちりと奪い、素材は冒険者ギルドにて売り払っていた。
「セリムさんがいないから楽に済みましたし、たまに襲ってきたモンスターからの素材もいい値段で売れそうです」
頭の中でいくらお金が増えるかを計算しながら、いつものように喧騒が鳴り響く酒場部分を通り、受付へ向かって歩いて行く途中、冒険者ギルドの依頼用紙が貼り付けてあるクエストボードに真新しい羊皮紙が張られていたのを発見したマオはなんとなく立ち止まり、一枚の羊皮紙に目をやった。
パーティメンバー募集!
集え勇者候補!
当パーティでは遠距離からの攻撃ができる方を募集しています。
我こそは最強の遠距離攻撃の持ち主と思う方は勇者候補のセリムまでご一報ください。
報酬は要相談。
「なんですかこれは……」
内容を見るからにパーティ募集の類であることはすぐに理解できた。遠距離攻撃ができる人材を探しているというのもわかる。
「どうして勇者を募集しているのでしょう? あとさらっと自分が勇者候補とか書いてますし」
マオは怪訝な表情を浮かべながら冒険者ギルドの中を見回す。
すると酒場の隅のほうに陣取り、難しい顔をしたセリムの姿がマオの目に入った。
どうも募集者が集まらないのか彼のテーブルの前は空席のままであった。
というかセリムはなぜかイライラしているのか異様な殺気という呼べるようなものが周囲を覆っているのだ。
「大方うまくメンバーが集まっていないのでしょうね」
予想を口に出し、仮にも神官でありながらもマオはセリムのパーティメンバー集めが上手くいっていないことを確信して口元を歪めて嗤う。
「パーティメンバーが集まるのはまだまだ先の話でしょうかね」
しかし、別に仲間が集まっても集まらなくても問題ないマオは興味を失ったように視線を受付へと向けると依頼の薬草とモンスターの素材が入った鞄を揺らしながらそちらに向かい歩き出したのだった。




