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まだ試したことはありません

「な、何する気だ!」


 厳つい男が慌てて振り返り、魔力で光る手を包帯男へと当てようとしていたマオの腕を掴む。


「なにって回復ですが?」


 何を言ってるんです? と言わんばかりにマオは頭の上に疑問符を浮かべているような表情で男を見る。


「嘘つけ! 回復魔法はそんなに輝かないだろが!」

「ですからこれはマオが改良したオリジナルのです。まだきちんと実験はしたことがなかったのでこの機会に試そうかと……」

「実験扱いか!」


 はぁ、と深くため息を吐いたマオは手から魔力の輝きを消し、何もしないというようなアピールを見せた。

 その動作を見てマオの腕を掴んでいた男の力が僅かに緩んだ。そして力が緩んだ事に気付いたマオは即座に聖書の取っ手へと手を伸ばし、掴んだ鈍器を一切の躊躇いもなくマオの手を掴んでいる手へと振り上げた。


「ひぎゃぁぁぁぁぅ⁉︎」


 ゴキっとかボキっとかいう音が響き、マオの手を離した男は普通は向かない方向に向いてしまった腕を抑えて絶叫を上げる。

 そんな男など目に入らぬのかマオは聖書を下げると重症に見える男に向かいなおる。


「さ、重症のあなたから治療を開始しますよ」


 にっこりという音が聞こえそうなくらいにまったく邪気を感じさせない笑みを浮かべてマオは包帯男へと再び魔力で輝く手を向けていた。


「マオの作り出した魔法、過剰回復魔法オーバーヒール。通常の回復魔法ヒールの十倍の魔力を込めた回復魔法です。これなら致命傷でも生きてさえいれば普通の生活を送れるくらいには戻るはずです」


 もし、これで包帯男が本当に死ぬかもしれないような傷を負っていたのであれば今のマオの笑顔は天使のような笑顔に見えた事であろう。


 しかし、実際は怪我などはしておらず、ただ金をせびるためだけに大怪我をしているフリをしているだけなのだ。


「あ、一応確認しておきますが、本当に(・・・)怪我してますよね? 回復魔法は傷や病に侵されてない状態で受けると逆に体調が悪くなったりしますので」


 包帯男は必死に左右に顔を振っていたが、それをマオは「重症だから早く何とかしてくれ!」と受け止めた。悲しいことに包帯男のジェスチャーは伝わらなかったのだ。


 ここで回復魔法ヒールについて軽く触れておこう。

 回復魔法ヒールとは簡単に言えば魔力で傷口を塞いだり、軽い病なら治すことのできる魔法である。それは軽症なら少量の魔力で済み、大怪我ならば大量の魔力を使う。


 さらにいうなら回復魔法ヒールに使用する魔力の量も傷や病気によってかなり違う。

 小さな傷に対して大量の魔力を使い回復魔法ヒールを使用した場合は傷口が治った後に元の傷以上に大きな傷口になったりするのだ。

 このことから魔法を研究している人は回復魔法は傷を治す魔法ではなく、体の治癒能力を高める魔法だと考えられていた。


 では、怪我などを負っていない者にただの回復魔法ヒールではなく、過剰なまでに圧縮された魔力での回復魔法ヒールをかけたらどうなるのか?


過剰回復魔法オーバーヒール


 魔力により輝くマオの手が包帯男に触れ、マオの魔力が包帯男に流れ込んでいく。


「ギィィィヤァイぉぇぁぁぁ⁉︎」


 次の瞬間、包帯男が悲鳴を上げながら跳ねた。

 それも何度も何度も。

 跳ねている間も絶叫は続き、さらには白い包帯が赤く染まっていき、そこから滴る血で床に水たまりを作り始めていた。


「傷なんてなかったんじゃないですか!」

「ひぃ!」


 やがて痙攣でしか動かなくなった真っ赤な包帯男を見てマオは怒りながら振り返り、折れた腕を抑え短い悲鳴を上げた厳つい男を睨みつけた。


 いきなり相方が真っ赤に染まり動かなくなったことに厳つい男は完全に腰が抜けていた。

 周りの連中はというと今まで何度も行われてきた事からこれから起こることが分かっていたために、残念そうなものを見るような目を男へと向けていた。


「女神様は言いました」


 これから行われること、それは、


「嘘つきはぶっ飛ばすべし!」


 暴力神官による慈悲のない制裁である。

 叫んだマオは再び聖書を手に取り、鈍器それを腰が抜けて動けない男の横から叩きつけた。


「あぁぁぁぁぁ!」


 避けることもできずに叩きつけられた鈍器が男に直撃する。そしてマオが完全に聖書を振り切ると男は回転しながら横に吹き飛んで行き、飛んでくると予測してテーブルごと退避していた他の冒険者たちの横を通り壁へとぶち当たり血反吐を吐いて沈黙したのであった。

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