一日一善!は女神の教え
「あ、以前財布を拾ったお礼ですか?」
「ちげえよ」
「でしたらその前に薬草を分けたおばあさんの知り合いですか?」
「違う」
「んーいじめられていた子供のお父さんですか?」
「違う!」
「だったら……」
「おい! いい加減にこっちに話をさせろよ! というかお前どんだけお礼に心当たりがある善行を積んでんだよ!」
次から次へとお礼に心当たりがある事柄を述べ続けるマオに厳つい男がキレた。
「女神様の教えにこうあります。一日一回はいいことをしましょう、と。ついでにマオは善行を全部メモってます」
何処から取り出した分厚いメモ帳を厳つい男に見えるように掲げるマオ。そのメモの表紙には丸っこい文字で一日一善! と書かれていた。
「ふん、お礼ってのはいいことをした時だけにもらえるもんじゃないんぜ!」
「そうなんですか?」
「ああ、こいつらを見てみろ!」
厳つい男が僅かに体をズラすとその後ろにはモンスターと見間違えそうなくらいに包帯でぐるぐる巻きにされた姿の人? らしき者が二人いたのだ。
「こいつらに見覚えあるだろう?」
「そう言われましてもマオにモンスターの知り合いはいませんし」
「モンスターじゃねえ! 人だ!」
「……そうですか」
普通、顔が見えないほどの量の包帯を巻いてるような状態なら動けないと思ったマオであったが流石に話が進まないことに気づいたようで口に出すのをやめた。
「こいつらはお前にやられたせいでまともに仕事に就けない体にされちまったんだ
「マオがですか?」
まるで心当たりがないマオは怪訝そうな表情を浮かべながら再び包帯男? へと目を向けるのだがしばらく眺めていたのだが全く心当たりが浮かばなかった。
「どう責任取るつもりだ! あぁ!」
そんなマオを見て怯んだ思ったのか厳つい男は唾を飛ばしながら怒鳴る。飛んできた唾に嫌そうな顔をしながらマオは小さくため息をつく。
「回復魔法かけましょうか?」
「そういう問題じゃねえんだよ! 治療費やら慰謝料やら金をよこしな!」
善意から言ったのだがあっさりと断られてしまった。
そしてギルドにいて寛いでいた他の面々はその言葉で大体察していた。
ようは男達はマオが色々と問題を起こしていることを何処からか聞きつけて金をたかりにきたという事を。
そしてすぐに興味を失ったかのように食事や雑談を再開する。
この男達がどういう結末を迎えるのかの予想がついたからだ。
「いえ、マオはこう見えても神官の端くれ。生きてるのなら多分直せ…… 治せます」
しかし、マオはたかられているという事に気付かない。さらには断られたくらいでは怯まなかった。自分よりも体が大きい男に自分から詰め寄り瞳に力を込めて見上げていた。
「き、効くかどうかわからない回復魔法よりも金を寄越しな!」
そんなマオに気圧された男であったがすぐに思い出したかのように金を請求してきた。
「じゃ、治しますね」
「なっ⁉︎」
男の目の前からマオが一瞬で姿が消え、背後の包帯男の前に姿を現した。
驚きに目を見開き、男が振り返るとすでにマオは包帯男の腕を掴んでいた。
「これだけの包帯を使ってるんです。さぞ大怪我を負われたんでしょう」
ぶんぶんぶんぶん
口元まで包帯で巻かれているせいか声も出せない様子の包帯男が顔を大きく左右に振る。心なしか否定しているように見えなくもない。
「神殿では使うのが禁じられていましたがマオは大怪我にうってつけの回復魔法を習得しているのです」
回復魔法は神聖な魔法である。
そんな神聖魔法を発動させようとしているマオの手が白く輝く。
普通なら神々しく見えるはずのその魔法が今は怪しく光っているようにしか周りの人達には見えなかった。




