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鈍器とは鉄だけであらず

「ん……朝ですか」


 眠っていたマオは窓から入ってきた朝日の眩しさに顔をしかめながらも目を覚ました。


 マオがいる場所は冒険者になりたての人たちがよく使うとギルドに紹介された宿、初心者の集いと呼ばれる場所だった。

 料金は安く、さらには味は悪いが朝食付きということで人気らしい。

 軽く伸びをしながら周りを見渡すと同じように初心者らしき冒険者たちが薄い布を被って寝ている姿がちらほら見える。

 料金が安いのは個室ではなく雑魚寝であるゆえなのだった。

 しばらく、ぼーとしていたマオであったがお腹から可愛らしい音が鳴り、反射的にお腹を抑え、顔を赤くしながら誰にも聞かれていないかを確認するかのように周りを見渡していた。


「とりあえず食事です」


 お腹の音を聞かれたら聖書で頭を殴りつけてやろうと思ったのか片手が聖書に伸びていたが使われることはなかった。

 被っていた薄い布を綺麗に折りたたみ、荷物であるカバンを背負い、鎖付きの聖書を肩から下げると今度は食堂に向かい歩き出す。


 鼻をヒクヒクと動かしながらマオはいい匂いに誘われるかのように歩く。

 匂いの発生源らしき部屋を除くとそこにはいくつものテーブルがあり、食事をしている人たちの姿があった。


(ああ、お腹が減りました。昨日は魔法を使わなかったから大して減らないだろうと思ったんですが)


 再び音を鳴らして主張してくるお腹を抑えながらマオは食堂の中へと足を踏み出した。


「あ、マオ! ここ空いてるぞ!」

「……」


 なぜか先にいるセリムが手を上げ、マオに向かって席が空いているアピールをしてくるのだがマオはそれを顔を顰めながらも無視。

 他の人たちが受け取るのを真似して朝食である何かを煮込んだであろうスープと、硬くて有名である黒パンを受け取り、あまり関わり合いになりたくないセリムから一番離れた席へと腰を落ち着かせた。


「女神よ、今日の糧に感謝します」


 指で軽く宙に十字を切り、女神への祈りを済ませたマオは瞳を輝かせながら匙を手に取りるとスープをすくい口へと運ぶ。


(濃い! すっごく濃い!)


 味付けの濃さに声には出さなかったが驚いていた。

 しかし、食べ物であれば食べれたらオーケー! でもできたら美味しいのが良い! との精神である神官のマオにはそんな事は関係ない。瞬く間にスープを飲み干してしまい、黒パンだけが残る羽目となった。


「あ、スープに付けて食べればよかったんですね。付けて食べるから味が濃かったわけですね」


 周りを見るとみんなそうして食べていた。

 普通、黒パンは硬くてパンだけでは食べれないとまで言われているようなパンである。逆に柔らかいパンは白く白パンと呼ばれていたりする。


 しかもこの宿、初心者の集いの黒パンはある異名を持つほどに硬いのだ。


 その名を、歯砕きパン。


 普通に食べると歯が折れると言われるくらいの硬さなのだ。さらに噂ではこの宿の黒パンで殴りつければゴブリンの頭を砕く鈍器とまで言われている。


 そんなパンであることなど知らないマオ。いや、黒パンは硬いという事は質素を重んじていた神官であるマオは重々承知している。

 しかし、マオはそんな鈍器にさえなると言われている黒パンを手に取り、大きく口を開くと、


「「「ま、まて!」」」


 何人かの人がマオが黒パンに何も付けずに食べようとしたことに気付き、制止の声をかける。


「あーん」


 しかし、すでに食べる気でいるマオに制止の声など届くはずもなくマオは凶器とも呼ばれる黒パンにかぶりついた。


 バリガリゴリボリグシャァ!


 おおよそパンを食べただけでは聞かない音が鳴り響いた。


「うーん、黒パンはやっぱりこれくらいの歯ごたえがまあまあです」

((あの歯砕きパンがまあまあの歯ごたえだと…… 神殿での食事って一体……))


 食堂に鳴り響いた音を聞いている限り、おおよそ歯ごたえとは程遠い音が聞こえたため、食堂でマオと同じ? ように食事をしていた人達の手は完全に止まり、神殿での食事がどんなものかと考えるのであった。


 後日、初心者の集いで黒パンの硬さが大した事ないと思い、歯を折る冒険者が何人も現れるのだがそれはまた別の話。

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