フライパンは料理道具? いえ、武器です!
コックの名前を変更
「誰なんだよ…… コックファファフィ!」
掴んだフライパンを適当に振り回しながらセリムは叫ぶ。
セリムがフライパンを振るたびにスライムへと当たり、その衝撃でコアが破壊されたスライムは次々とただの水の塊へと姿を変えていく。
「神官長曰く、コックファファフィはフライパン一つでゴブリンキングを倒したそうです」
「そいつ絶対コックじゃないよな⁉︎」
ゴブリンキングは名が指す通りゴブリンの王。
ゴブリンキングが現れるということはゴブリンの軍勢が姿を現わすことに他ならない。
小さな国なら現れたら滅びてしまうほどの戦力なのだ。
普通ならば騎士団や神官を騒動員して当たるような規模、それをフライパン一つで討伐したのであればそれは最早、人として認定されないだろう。
「作った料理は見た目は良かったのですが食べれてたものではありませんでした」
「不味かったのかよ!」
セリムはマオにツッコミを入れながらも手にしている武器であるフライパンを仕方なしに振るい、次々と飛びかかってくるスライムへと叩きつけていた。
「おかしいだろこのフライパン…… スライムが一撃だぞ」
フライパンでスライムを叩くたびに周りには次々と水溜りが作り出されていた。
「コックファファフィはモンスターを料理する専門だったそうですし、そのフライパンにはモンスター特効でもついてるのかもしれませんね」
「そりゃ不味いのしか作れないよな!」
モンスターの肉などは不味いものが多い。
武器や防具としては有効活用出来る物が多いのだが食材としてはゲテモノに分類される物が大半なのだ。
「これで最後だぁぁぁ!」
気合いの篭った雄叫びを上げながら、最後の一匹となり逃げようとしていたスライムへと飛び掛かりセリムはフライパンを全力で振り下ろした。
振り下ろされたフライパンは弧を描き、跳ねながら必死に逃げるスライムの頭、と呼んでいいものかわからない所へと吸い込まれるように叩きつけられると、パシャりという軽い音と共に水へと還したのであった。
「どうだマオ! 俺の実力を見たか!」
「いえ、あなたの実力といいますかフライパンを手に入れてからは強かったですよ? ですがその前は…… ふっ」
武器は取られる、追いかけ回される、さらにはスライムに滅多打ちにされるといった散々なセリムの姿を思い出したマオは無意識に鼻で笑った。
そしてゆっくりと指を一本立てると肩で息をしているセリムの後ろを指差した。
「というわけで今度は武器を持っている状態からのスタートです。次はマオにいいとこを見せてください」
「へっ?」
柔らかな笑顔を見せたマオとは反対に間抜けな声を上げたセリムはマオが指差した背後へと振り返り、引きつったような表情と短いと悲鳴を上げる。
マオが指差したセリムの背後には瞳を爛々と輝かせ、様々な武器を手にして獲物を狙っている緑色の小人、ゴブリンの姿があった。
「では、マオは撤収しますので!」
言うや否やマオは腰掛けていた大木から立ち上がるとセリムに笑顔で手を挙げると即座に背中を向けて全力疾走を開始。
あっという間にマオの姿はセリムの視界から消えたのであった。
「ちょ、待て、ふざけんな!」
「キシャァァァァァ!」
セリムが大声で叫ぶのと時を同じくしてゴブリンはセリムへと襲いかかったのであった。




