マオ襲われる?
本日二話目
「神殿から二日位で街に着くってマオは聞いたんだけどなぁ」
木々の生い茂る森の中、切り株に座ったままマオは一人口ごもった。
すでにマオが神殿を発ち二日どころか一ヶ月が経過していた。
本来、街に着くには神殿から街への一本道を歩いて行くだけでいいのだが、マオが今まで神殿から街へ行く時には誰かが必ず付き添いについており、一人では行ったことが無かった。
そして一番の問題はマオ自体が致命的なまでの方向音痴であった事だった。
「ん? この木はマオは見たことある気がする。ということはこの道で合ってるよね!」
自覚のない方向音痴はこうして生まれる。
こうやって根拠がないのに何故か自信満々のマオは本来は一本道であるはずの道をひたすらに逸れているのであった。
さらに迷うこと数時間。
マオは森の中で火を起こしてお祈りをしていた。
「慈悲深き女神プレンティよ。日々の糧をお恵みいただいた事に感謝します」
手を組み祈りを捧げるマオの姿は実に絵になっていた。
ただし、その手前で上がっている焚き火から香ばしい匂いがしなければだが。
「いただきます」
マオがそう告げて手に取ったのは木の串に突き刺さり、いい匂いを周りに漂わせている肉であった。
普通の神官、いや、普通の人であれば一ヶ月も遭難すれば憔悴するか死に至るものだがマオは自分を餌にしようと襲いかかってきた獣やモンスターを返り討ちにして糧としていたのだった。
ナイフ一本で。
そして今日のマオの糧となったのは彼女の三倍は大きいクマであった。
倒れた木に腰かけたマオの後ろに体の一部が切り取られたクマが倒れているのだ。
「おお! この肉はマオ的に当たりですね!」
食べた肉が美味しかったのかマオの食が進む進む。
クマの肉を神官とは思えないほどの手際の良さでこれまた神官が持っていなさそうなゴツいナイフで切り分けては焼き、それを食らっていく。
彼女の小柄な体のどこに入ったのかわからない程の量の肉が瞬く間に消えていく。
「ごちそうさまでした」
背後のクマの大半が骨と皮だけになったくらいでようやくマオは口を拭き、肉を食べる手を止めたのだった。
「ん?」
再び街を目指すべき立ち上がり、鞄を背負ったマオが肉を切り脂で汚れていたナイフを拭っていると草木が揺れているのがたまたま目に入った。
揺れは徐々にマオの方へと近づいてきていた。
「ひゃっはー! カモだぜカモ!」
「よう姉ちゃん、こんな森の中でなにしてんだ?」
マオの目の前に現れたのは四人。
そのどれもが奇抜な格好をしている者たち、いや野盗なわけなのだが。
マオはようやく神殿を出てから初めての人に遭遇したわけだ。
四人とも着込んでいる軽鎧にはやたらとトゲトゲがついてたり、頭はなぜか真ん中以外は髪を剃っていたりしている。
いや、彼らなりの理由があるのかもしれないが残念ながらマオには全く理解できなかった。
しかし、普通ならば奇抜な輩が剣や斧を振り回しながら目の前に現れたら多少なりとも警戒をするものだろう。
「どちら様で?」
武器を構えて道、と言っていいのかわからないが塞ぐ輩、しかも武器を構えているのだからどう考えても襲撃者だと考えるのが普通なのだが……
頭がゆるいらしいマオは首を傾げながら間抜けな返答をしてきたがために奇抜な輩が声をあげて笑い初めた。
「なんなんですかって善良な市民だよ」
「そうさ、金がなくて食料も買えない貧しい市民だよ」
ゲラゲラと笑いながらそんなことを言ってくる。
よく見れば金もなく食料も買えない程の貧乏人にしてはそれなりの防具をしているようなのだが。
「まあ、それは大変ですね」
どこかズレた返答をするマオの体を舐め回すような野盗の視線に気付かずにマオは本当に心配をしているようだ。
それを怯えていると取ったのか野盗達が武器を構えたまま徐々にマオへと迫りつつあった。
「へへへ、嬢ちゃんのその神官服をくれよ」
「ははは」
「いろいろサービスしてくれよぉ」
下卑た笑みを浮かべながら自分に近づいてくる野盗達を見てようやくマオも自分がセクハラというか命の危機的状況に陥っていることに気づいた。
「もしかしてマオ、襲われてる⁉︎」
「捕まえろ!」
野盗たちが武器を振り上げて襲いかかってきた!
しかし、彼らには見えていなかったのだろう。
マオの後ろのほぼ骨だけのクマの死骸があった事に。
そして知らなかったのだろう。
自分たちが獲物に選んだ者のヤバさに。