真実の二つ名
しばらくの間項垂れていたセリムであったが、マオがお茶を飲み寛いでいる間に立ち直ったのか、マオの神官服を掴み引きずるようにしてギルドの外へと連れ出した。
「よし! 依頼に行くぞ! すぐ行くぞ!」
「はいはい」
何故かヤル気に満ち溢れたセリムの気迫に呆れたように返事を適当に返し、セリムの手を振りほどいたマオは仕方なしにセリムの後ろを付いて歩く。
「あ、これください」
「あいよ!」
いや、付いて行ったのではなく露天に近づいていっただけかもしれない。
道の端で出されている露店を覗き込んではマオは細々とした買い物を繰り返しているため歩みは遅々として進まない。
「また買い物かよ!」
一軒、二軒目はセリムも文句は言わなかった。だがそれが七軒目となると流石にセリムも声を荒げた。
セリムとしては売られた魔剣の代わりとなるまともな武器を手に入れるためにも早急にお金を入手したいのだ。
だがマオとしては初めての自由時間である。
神官としてこの街に来た時はというと聖書を読んだり、お祈りをしたりといった事ばかりだったため自由に使える時間というのが皆無だったのだ。
そのため、マオにとっては道に溢れている露店というのは非常に好奇心を刺激されるものなのだ。
「はぁぁ」
しかし、そんな風に興味深げに眺めている間にもセリムという雑音が混じるために心行くまで堪能できないということにマオは無意識にため息をついていた。
「せっかちですね」
「当たり前だろ! 早く依頼いくぞ」
マオとしては別にセリムに同行する必要など微塵もないのだが、なぜかセリムはマオが同行するのが当然といった流れで会話を進めていた。
(一人で行けばいいと思うんですがね…… 一応は二つ名とやらがある程度には実力者なわけですし)
実はセリムなりの初心者に対する優しさ? の様なものなのだがそんなわかりにくい態度であるセリムの思いは全くマオには響かない。いや、それどころか、なんか邪魔だなぁと思われているのだがそれはセリムの知るところではなかった。
「『武器無しのセリム』」
買った小物を鞄へと仕舞いながらマオが鼻で笑い、聞こえるか聞こえないかという小さな声でそんな事を呟いた。
すると怒っていたセリムがピタリと動きを止め、次には肩を震わし始めた。
「なんだよ! その『武器無し』って!」
「あんな小さな声を聞き取るなんてすごい!」
「なんでそんな変なところで感心してるんだよ! それより『武器無し』ってなんだ!」
「あなたの新しい二つ名ですよ? 二刀のセリムって二振りの剣を持っていてこそでしょ? まともな武器を持っていないのにそんな二つ名を名乗っていたら詐欺ですよ? だったら武器がない事から武器無しと名乗っても問題ないはずです」
どうだ、と言わんばかりにマオは胸を張る。
「取り消せ! なんかムカつくから取り消せ!」
「女神様は嘘を許しません」
悪戯が成功したかのような笑みを浮かべたマオは買った物を鞄の中へと詰め込みながら、今度はセリムを置いて先に歩き始めた。
「おい! 取り消せぇぇ!」
「ふふふふ。安心してください。女神様に仕える者として真実の二つ名である『武器無しのセリム』という異名をマオが人々に知らしめてみせます!」
「やめろ、完全に風評被害だろが!」
「ふふふ、マオにお任せ!」
「やめろぉぉぉぉ!」
セリムの悲痛な叫びを嘲笑いながらマオは妙な決意を胸に秘めて街の門に向かって歩いて行くのであった。




