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お腹はいっぱい、懐も暖かく

 喧騒が再び戻った薄暗い店内ではあったのだが空気はマオが入ってくる前とは違っていた。

 話し声などは確かに聞こえており、お酒を注文したりする声も店内に響いていたりはする。

 だが店の中にいる人々の視線はとあるテーブルに釘付けであった。


 そのテーブルにはいくつもの空になった皿が重ねられており座っている者の姿は見えない。ただ、ひたすらに食器が重ねられていく様子だけが見られた。


「つ、追加の分になりまーす」


 怯えながら店の女性が両手に新たな料理を持ちながらそのテーブルへと近づいていく。


「あ、この空になった皿を、モグモグ、引いてもらって結構です」


 マオは食事をする手を止める事なく新たな料理を盛られた皿をテーブルに置いてもらう。


「わ、わかりました」


 両手に皿を持てるだけ持つと女性はそこから逃げ出すように店の奥へと引っ込んで行った。


 少年を気絶させて一時間。

 店のメニューに書いてあった物はすでに一度食べ終わっており、今食べているのは二週目である。

 それなりの量がマオの胃袋の中へとおさまっているはずなのだがマオの体型に変化は全く見られない。


((ど、どこに入ってるんだ……))


 男性からは驚きの、女性からは嫉妬が混じったやっぱり驚きの視線が向けられているのだがマオは食事に夢中で全く気がつく様子がない。


 それも幸せそうに頬を緩めて食べるのだ。

 横に少年が白眼を剥いて転がっているのを差し引いてもそれは魅力的な笑顔であった。


「ふー、女神よ。今日の糧に感謝します」


 マオが食事を止めたのはそれから二時間経ってからであった。

 食べ物で汚れた口元や手を布巾で拭い、両手を組むようにしてマオは女神へと感謝の祈りを捧げる。

 その姿は荒くれ者と呼ばれる冒険者達にもマオのその美少女然とした姿から神々しさを感じられるものであった。


「ん、なんで俺倒れてるんだ? あとなんで腹と背中が痛いんだ?」


 祈りを捧げているマオの横で気絶していた少年がようやく目を覚まし、自分の体に生じている痛みに首を傾げていた。

 どうやらマオに殴られた衝撃で記憶が飛んでいるようだった。


「空腹のあまりに倒れたのでしょう。これをどうぞ」


 適当に答えを返したマオではあったが優しさ、と呼んでいいのかわからないがさらに残っていた骨つき肉を掴み、それを少年へと渡すかのように突き出す。

 しっかりと齧った跡がある肉を。


「……食べかけじゃねえかよ」


 受け取ったはいいが齧った跡がある肉を食べたくはないのか少年は嫌そうな表情を浮かべ、次にテーブルの上を所狭しと占拠している空の皿の山を見て唖然とする。


「どんだけ喰ってんだよ…… というかこんだけ喰って金あるのかよ」

「貴方の奢りに決まってます。久々に全力で食べましたし」

「はぁ⁉︎」


 マオが食後のお茶を優雅に飲みながら発した奢り発言に少年が目を見開き驚きを露わにする。


「なんで俺が全部奢らないといけないんだよ!」

「奢るって言ったじゃないですか? マオは好意はきっちり受け取るほうなので全力で食べさせていただきました」


 神官服の上から軽くお腹を叩いているマオは非常に、そう非常にいい笑顔だった。


「そんなに金はねえよ!」

「安心してください。ちゃんと料金は払ってます」


 マオと出会ってまだそんなに時間が経っていないにも関わらず少年はその笑顔に悪寒と不気味さを感じ取っていた。


 絶対に碌でもないことをやってる!


 そう確信を得れるほどの負の信頼を少年はマオへと得ていたのだ。


「貴方の腰の武器、二本ともそれなりの魔剣だったそうですね。お高く買い取っていただけました」


 マオは片手でちゃりちゃりと音が鳴る皮袋を、もう片方を近くの席に座る冒険者を指差した。

 片手の皮袋にはそれなりの量の金貨と銀貨が、指をさした方には少年が先程まで腰に差していた魔剣二振りを腰に下げる冒険者の姿があった。


「お、お前……」

「これでマオの顔に剣をぶつけたことはチャラにしてあげます」

「チックショォォォォォ!」


 ニッコリと効果音が付きそうなくらいにいい笑顔を浮かべたマオであったが実はかなり顔に剣をぶつけられた事を根に持っていた。

 そう、駆け出しであっても冒険者にとっては生命線と言える武器を奪いさっくりと売り払うくらいに。


「返して! それ俺のだから返してくれよぉぉぉ!」

「そうはいかねえな。俺っちも金を払って買ったんだからな。で、いくら出す?」


 少年が泣きながら売り払われた魔剣を返してもらおうとしているのを横目に見てマオは非常に満足そうな笑みを浮かべてお茶を啜るのであった。

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