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旅に出る

新作投稿開始です。

お付き合いしていただければ幸いです。

 世界を創りし女神の一柱、女神プレンティを崇めるプレンティ神殿。


 人気の少ない森の中にある本殿の中で毎年行われている新たな神官を世に送り出す儀式が行われていた。


 山から引いた水が引かれているために清涼な雰囲気を出す神殿の中には二人の人影が見て取れる。


「今日ここに新たなプレンティの神官が生まれたこと嬉しく思います」


 人影の一人である白い神官服を纏った老神官がそう告げ、手にしていた白い杖で十字を切る。

 しかし、何故か『嬉しく』と述べたはずの老神官の顔は曇っていてどう見ても喜んでいるようには見えない。


「ありがとうございます」


 老神官の前には膝を付き、両手を合わせて祈るようにしている少女の姿があった。

 少女がゆっくりと瞳を開き、その翡翠の瞳を輝かせる。そして立ち上がると長い金の髪が溢れるようにして流れ落ち、純白の神官服を彩り長いスカートが僅かに揺れた。


「マオ、これで今日から貴女はプレンティの神官の一人です。これからは神官としての自覚を持ち、女神プレンティの教えを広めるのですよ」

「もちろんです神官長」


 誰が見ても完璧なまでの微笑を浮かべてマオは頷く。


「くれぐれも、本当にくれぐれも神官としての自覚を持って行動するのですよ!」


 しかし、神官長は全く安心していなかった。

 儀式を行う際に上座にいた神官長であったがすぐにマオの元に小走りで駆け寄るとその腕を掴み、瞳を覗き込むようにして念を押してきた。


「神官長、そんなにマオは信用ありませんか?」


 そんな自分を全く信用してもらえていないことからマオは少し悲しげに瞳を潤ませる。


「胸に手を当てて考えてから言いなさい! どこの世界に神殿に押し入った賊を返り討ちにする神官がいるのですか!」

「探せばいると思いますが……」

「あなたに言っているのです!」


 太々しくも自分じゃないかのように述べたマオに神官長は顔を赤くしながら詰め寄った。


「いいですか! 貴女はこれからこの世界を作った女神であるプレンティの神官になるのですよ! もっと神官らしくなさい」

「前向きに検討します」


 神官長のお叱りもどこ吹く風と言うように笑顔を浮かべるマオを見て神官長は深い、それは深いため息をついた。


「はぁ、もういいです」


 諦めたように呟いた神官長は再び上座へと戻る。


「それでは旅立ちを迎える神官に餞別を」


 神官長が両手を鳴らすと大きな鞄を持った新たな神官が傍から姿を現した。


「その中には三日分の食料、水、衣服が入っています。近くの街であるオフタクまでは二日もあれば着きますし充分でしょう」

「感謝いたします」


 神官から大きな鞄を受け取ったマオはそれを背負う。


「そしてこれは貴女への最後の餞別であり試練です」


 神官長が今度は服のポケットから小さな宝石のような物を取り出すとマオへと手渡した。

 マオはというと受け取った小さな宝石を興味深かそうに眺めていた。


「それは神結晶。真に女神への信仰心を持つ者が手にするとイメージした物へと変化する。まさに神の物質です」

「思ったより小っちゃいですね」


 手の中で神結晶を転がしながらマオは感想を述べる。


「これは神官になった者へと旅立つ前に渡す物です。その神結晶へと信仰心とイメージを流し込み自分の求める物へと姿を変えたのであればその神結晶は貴女の物となります。これから貴女が赴く旅の力となるでしょう。ですが神結晶を自らの力と出来た者はここ百年は存在して……」


 神官長が話をしている途中でマオの手の中で転がされていた神結晶が眩いばかりの光を放ち始めた。


「こ、この輝きは!」

「イメージイメージ」


 神官長が目の前で起こっている輝きに驚愕を露わにしている間にも神結晶の輝きは収まることなくマオが瞳を閉じて頭に浮かべているイメージを吸い続けていた。


 やがて輝きが収まり、マオが瞳を開くとマオの手の上には神結晶の姿は見当たらず替わりに大きく分厚い金属の輝きを放つ本とそれを縛り付けるように巻かれている鎖があった。


「できちゃいましたが?」

「……もう貴女に何かをいうのは諦めましょう」


 自分で作り出した物を見て驚いた声を上げているマオとは反対に、絞り出した疲れたような声音で神官長はマオが神結晶で作り上げた物、鎖でぐるぐる巻きにされている恐らくは鉄で作られたであろう聖書へと視線を向けていた。


「……あなたに女神の加護がありますように」

「はい神官長! プレンティ神官マオ、女神様の愛を広げるべく旅に出ます!」


 期待に溢れ瞳をキラキラと輝かせたマオは神結晶で作られた聖書と鞄を背負い神殿の門から軽快な足取りで出て行くのであった。


「不安だわ……」

「私もです。神官長……」


 残された神官長と神官は只々、マオの響かせる鼻歌とは裏腹に言いようのない不安に押し潰されそうだった。

もう一話後で投稿します

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