表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕のみる世界  作者: 雪原 秋冬
一章
21/42

21.宇佐見悠斗

 翌日。教室に、須納の姿が現れることはなかった。クラス担任は、同じく姿を見せない三咲に対しても特に触れることなく、いつもと変わらぬ様子で朝のホームルームは終了した。

 ……やはり、何かがおかしいのだろうか。家庭にもよるだろうから一概には言えないけれど、三咲は優等生と言える部類の人間で、連絡もなしに月曜日まで姿を消していたら周囲が何らかのアクションを起こしそうなのに、誰もそれについて触れない。

 東雲が言っていたように、事故や事件に巻き込まれている形になっているのか……?

 三咲の席はちゃんとある。だから、存在自体がどこか……そう、異界に連れていかれたまま、というわけでもなさそうだ。

 伊織の様子も普段と変わりない。また昼に誘おうと思ったが、今は宇佐見先輩を捜すことが先決だ。兄貴に見つかると面倒だけれど、昼を済ませてから三年生の教室を一つ一つたずねてみるか。

 これで宇佐見先輩と兄貴が同じクラスだったら詰んでいるな……。所在を確認したときに兄貴がいなくても、クラスメイト経由で弟である俺が来ていた、と伝わる可能性は十二分にある。

 ああ、でも兄貴のクラスだけ確認せずに、それ以外で見つからなければ必然的に答えが分かるから、わざわざ踏み込む必要はないのか。

 仮に二人が同じクラスだったとしても、事前に分かってしまえば、教室の外でタイミングを見計らって宇佐見先輩を捕まえることはできるはず。まあ、うまいこと見つけられればそれでいいのだが……。

 そううまくいくとは限らないわけで。案の定、と言うべきなのか、宇佐見先輩は兄貴と同じクラスのようだった。クラスをまわり切る前に、宇佐見先輩がどこのクラスなのか知っている人から教えてもらえたのは、不幸中の幸いだろうか。

 そしてもう一つ情報があった。宇佐見先輩は図書委員長で、昼休みや放課後は図書室にいることが多いらしい。それなら危険を冒してまで教室には行かずに、件の図書室へ向かってしまったほうがいいだろう。

 ……あの夜に、おそらく学校へ侵入しようとしていた先輩が、図書委員長……。例の小さな図書室の鍵が開いていたのも、偶然ではなかったのかもしれない。もしそうなら、宇佐見先輩と俺たちの日程が一日でもずれてさえいれば、あんなことにはならなかったのだろうか。

 ともかく、もう時間もないし、昼休みの間に図書室へ向かうのはやめておこう。行くとしたら放課後だ。

 そして放課後、俺は図書室の前に来ていた。当たり前だが、図書室は静まり返っているようで、何の物音も聞こえてこない。

 一呼吸おいてから扉を開けると、すぐそばにあるカウンターで待機している宇佐見先輩の姿が目に入った。しかしこちらには目を向けておらず、誰かが入ってきたと認識はしていても、あの夜に居合わせた俺が来ていることまでは気付いていないようだ。

 室内を見渡してみるが、ほかに人はいない。もしかしたら見えないところに誰かいるかもしれないが、声をかけられるのは今のうちだろう。

「あの」

「……、ああ、君か。来ると思っていたよ」

 予定調和だとでも言うかのように、宇佐見先輩は驚くそぶりをまったく見せなかった。ちらりと時計を確認するやいなや、言葉をつづける。

「ちょうどいいや。閉めるからちょっと待っててね」

「え?」

「僕と話がしたいんでしょ? 誰か入ってきて中断するのも面倒だし、閉室扱いにしておくんだよ」

 どうやら本当に誰もいなかったらしい。時計を見ていたということは、時間的にも問題ないのだろう。

 先輩が出入口の鍵を閉めたあと、案内されるがまま席に着く。

「イザナイさんについて知っていることを、教えていただけませんか」

「『宮原』に教えてもらわなかったの?」

「それは……」

「あはは、ごめんごめん。あいつらの情報にはかなり隔たりがあるだろうからね。まあ大体の察しはつくよ」

「…………」

「それで、どこまで知ってるの?」

「……それに答えたら、宮原家の情報を引き渡すことになりませんか?」

「あはは、そうだね。残念」

 まったく悪びれる様子もなく、まるで雑談の一環とでも言うかのようにして、彼は笑いながら流す。宮原家と久門家が対立していると知っている以上、むやみに喋ることはできない。

「でもさ、なんの対価もなしに僕だけ情報を渡すのも、フェアじゃないと思わない?」

「宮原について、何か喋れとでも言うんですか」

「あはは、違うよ。あの夜、何があったのか教えてくれたら、それでいいからね」

 思案する。喋るにしても、伊織の言動に関して気を付けなければ、うっかり俺から宮原家についてバラしかねない。

 あのとき、俺を含めた五人で七不思議のイザナイさんを実行しかけたところで、件の鏡からそれらしきものが現れた。そして一人が犠牲に。残りの四人は、命からがら逃げきることができた……。こんなところだろうか。

 それを宇佐見先輩に伝えると、先ほどまでとは打って変わって、感情を映さない瞳で「そう」と返答する。

「君たちはどうやってあの校舎……いや、敷地内に入ったの?」

「え……別に、何も特殊なことはしてませんが……門をよじ登ったり、()()()()開いていた窓から入ったりしました」

「ふーん、やっぱりそうなんだ」

 冷めた瞳で遠くを見つめるように、そうつぶやく。

「あのとき、君たちが出てきたタイミングで僕が来たと思っているかもしれないけれど、そうじゃないよ。元から僕はあの場所にいたんだ」

「は……?」

 思いもよらぬ言葉に、耳を疑う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ