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本部、行ってきます。

「最近なんか疲れた顔してんなぁ、ハナ?」

いつも通りのお昼休み、敦己が話しかけてきた。

まぁ、ね。と短く返事をした。実際疲れていた。

反応の良くない僕に、もしかして。といった表情の敦己がこちらの顔を伺いながら続けた。

「先週のアレとなんか関係があるな?さては。」

コイツはいつも変なところでカンが鋭い。

敦己が話す先週のアレ、とは先週の昼休みに、僕に用がある。と教室を訪れた風見野の事だ。


僕がC.D.Aにスカウトされた日の後日。

昼休みの教室に僕をスカウトした張本人、風見野舞衣かざみのまいがやってきた。

「あの。申し訳ありません。このクラスに咲坂花人さきさかはなとさんはいらっしゃいませんか?」

廊下からの声に教室の何人かが振り向いた後、名前を呼ばれた僕へ視線が移った。

「...お前もなかなかやるじゃねぇか。頑張ってこいよ。」

ニヤついた顔で敦己が話しかけてきたが、僕の耳には入ってこなかった。

僕は彼女に誘われるまま、人気のない屋上へとついていった。

辺りに人がいないのを確認すると、さっきまでいかにもおしとやか。といった風見野舞衣の雰囲気が一変した。あの日僕の記憶を消そうとした時みたいに。

「...こんな事になるとは正直思ってなかったけど、なっちまったもんはしょうがねぇか。訳わからねぇ事ばっかで戸惑ってると思うが、まあ聞きな。」

一応こちらの心配はしてくれていることに少し安堵した。けどそれにしても口調変わりすぎでしょこの人。

「アンタはC.D.A。Core.Dfense.Agencyにスカウトされた。簡単に言うと、悪い奴らをこらしめる秘密組織だ。こういうの好きだろ、男なんだし。」

「ひ、秘密組織?そんなマンガやアニメの世界みたいな...。」

「それが現実の事なんだよ。

アンタ、この世界の大体の機械が何で動いてるか知ってるよな?」

秘密組織とかって話から、急に当たり前の事を聞かれて逆に戸惑った。そんなの当然だろ。

「コア・ウェーブを受信して、だよね。実際に受信してるのは機械の動力になっている鋼核コアだけど。」

「そう、それだ。コアは世界中に尋常じゃない勢いで普及していった。今や世界の九割の機械がコアとコア・ウェーブで動いてる。

で、そんだけ広まると良くない事にコアを使う連中が現れるって訳だ。」

コア、良くない事に使う?

それは出来ないはずだ。一般に普及している鋼核コアには強固なプロテクトがかけられていて、本来の用途以外にはどうしたって使えないはずだ。

そんな事を考えていると、こっちの思考を読み取ったように舞衣が続ける。

「正規品のコアは本来の用途以外には使えねぇようになってる。発生するエネルギーにもリミッターがあって、出力は抑えられてる。けど、それは正規品の話だ。に《・》ら《》れ《・》た《・》コアがあんだよ。」

「コアを作るなんて、そんな事が出来る奴らがいるのか...。」

「これだけ、コアに頼り切った世の中だ。そいつらを放っておけば取り返しのつかない事になる。

そんな最悪の事態が起きんのを防ぐのが、アタシらC.D.Aの仕事だ。ここまでOKか?」

なんとか理解はできている。聞きたいのは、なんでそんな凄い組織に僕がスカウトされたのかって事だ。

「連絡先教えろ。今日の放課後、本部に連れてってやる。詳しい話はそっちでするってさ。」

やっぱりこっちが切り出すより先に答えられた。この感じには、しばらく慣れなそうだ。

連絡先を交換し終えたところで昼休みが終わった。教室に戻ると何敦己を含めて何人かのクラスメイトが僕に詰め寄ってきて何があった!?とか聞いてきたけど何もなかったという言葉と苦笑いだけ返して席に着いた。


そして放課後。

話を聞く限り、あれだけ凄い組織の本部なんだ。きっと僕には理解できない世界なんだろう。だけど僕はそこに行く。その組織の一員となるために。

舞衣に伝えられた場所には秘密組織らしい建物は無く、こじんまりとした古本屋だった。

...騙された?と疑っていると、古本屋の奥から三十代後半か四十代に見えるいかにもおじさんという感じの人が出てきた。

「もしかして、君が花人君?舞衣から話は聞いてるよ。その節はどうも、ありがとうね。」

落ち着いた、低い声だ。

どうやらこの古本屋で合っているらしい。僕はおじさんに連れられるまま店の奥へと入っていった。そして突き当たりには一つのドアがあった。

「ここから地下にいける。そこがボク達の本部さ。あ、自己紹介が遅れちゃったな。ボクは珠美幻弥たまみげんや。このC.D.Aで技師をやってる。」

エレベーターに入り、舞衣の戦闘を目撃したこと、スカウトされた事など自分に起きた事を話せる限り話した。

幻弥さんはうんうん。と頷きながら話を聞いてくれた。舞衣と違って一方的に言葉を浴びせてくる事はなかった。

そうこうしているうちにエレベーターが到着したらしい。チーンという音の後にドアが開いた。その先には、さっきまでの古本屋からは想像もつかないような広い屋敷のような場所だった。

幻弥さんは呆気にとられている僕の肩をポンと叩いて、ついてきてくれ。と言って先を歩いていった。

白い床と壁、随所にある豪華な装飾を眺めながら歩いているうちに。一際大きな扉の前についた。

「ここでC.D.Aのトップ、総司令官殿が君を待ってる。準備はいいかい?といっても、そんなに緊張する必要はないけど。」

「緊張する必要ないってそんなの無理ですよ!わからない事だらけでまだ混乱してます。」

「その混乱もすぐ解けるさ。ほら、行こう。」

ギィイ、という音と共に開いた扉の先には長いテーブル。そのテーブルに揃って均等な感覚で並んでいる木製の豪華な装飾が施してあるイスが見えた。

長いテーブルの一番奥には他のイスと比べても明らかに大きな、多分回転式のイス、がこちらに背を向けていた。

イスの正面のテーブルには...ファミリーレストランでよく見るようなパフェが置いてあった。食べかけだ。

「例の子、連れて来ましたよ。」

幻弥さんがそのイスに向かって話しかけると、すぐに返事が返ってきた。

「おぉぉお!きたか!サンキュー、ゲンちゃん!」

総司令官というくらいだから、勝手なイメージで厳つい男性かと思っていたけどその予想は大きく外れた。イスが回ってこちらを向いた時に現れたのは、明らかに少女だった。それも小学生くらいの。幻弥さんはすぐに混乱が解けるといっていたけど、なおさら理解不能だった。

「待ってたよぉ君!いやぁ〜!マイマイが記憶処理する前に話がついてよかったよかった!あ、座って座って!詳しい話するからさ!ゲンちゃんも座って!おじさんには立ち話は大変でしょ〜?」

言われるがままに一番近いイスに座る。

幻弥さんもお言葉に甘えて。と苦笑いを浮かべながら僕の隣に座った。

「じゃあ本題に入ろうか!ようこそC.D.Aへ!私は総司令官兼日本支部部隊長の獅童アリア!めっちゃ偉いんだぞ! 」

「は、はじめまして。えっと、アリアさん。僕は花人。咲坂花人です。」

凄まじいまでのハイテンションに若干乗り遅れつつ自己紹介をした。多分もう知ってるだろうけど。

「君を仲間に引き入れたのは他でもない。君にとんでもない才能があるかもしれないからだ!」

「そう、それをずっと聞きたかったんです。なんで成績も私生活も普通の僕が、こんなすごい組織にスカウトされたのかが。」

ウンウンとこの答えが出るのを知っていたかのように頷いたアリアさんはテーブルに置いてあったパフェを一口スプーンですくって、ゲンちゃんヨロシク!と言わんばかりの眼差しを向けて幻弥さんを指差してパフェを食べ始めた。

「その様子だと、ここがどんな組織かは舞衣ちゃんから聞いてるみたいだね。なら、話が早い。舞衣ちゃんが持っていた剣、あるだろ?あれはうちの組織の主兵装でね。正式名称は戦闘用鋼核兵装、エージェント達はアームズ・ギアと呼んでいるよ。そして、アームズ・ギアを使って戦闘ができるエージェント達の事を、鋼核装者コア・ドライバーと呼んでいるんだ。」

「アームズ・ギア...。」

「鋼核兵装の名前の通り、動力源にはコアを使っている。だけど一般に出回っているのとは違う、C.D.Aが独自に作り上げたものだ。」

と言って幻弥さんは羽織っていたコートのポケットから、六角形のコアを取り出した。

「こいつが現物。これを、剣型だったり槍型だったりするアームズ・ギアにはめ込んで使うんだ。

で、ここまでなら普通のコアと一緒だ。一番の違いは、使用者が限定されてるって事なんだ。

コア・ドライバー達はそれぞれ自分に適合した専用のコアを持っている。コアが二人の人間に適合する事は無いはずなんだよ。」

その話を聞いてハッとした。なら、自分がなんで舞衣のコアがはめ込まれていたアームズ・ギアを使用できたのか。

「でも、君は舞衣ちゃんのコアを起動させることができた。あの時のコアの反応を調べてみたけど、君と舞衣ちゃんのコアは確実に適合していたんだ。

後はどうぞ、アリアさん。」

アリアさんはいつのまにかパフェを食べ終えて、こちらを見つめて自分の喋る番を待っていた。やっと順番が回ってきたのが嬉しかったのか、幻弥さんの言葉から間髪入れずに続けた。

「そこに目をつけた私は君をここに招いたわけだ!賢いだろ?」

賢いかどうかはわからないけど、とにかく理解はできた。

つまり舞衣専用の武器を僕も使えてしまったという事だ。

「一気に全部飲み込めとは言わないよ、ここにもゆっくり慣れてくれればいいからさ!

じゃ、ハナトちゃんが新人卒業できるまで、ゲンちゃん、面倒みてやってね〜。」

「...まあ、そうなるだろうとは思っていたけど...。うん、そういう訳だ。何かあったらボクに聞いてね。」

頼りにさせてもらいます。と一言言うと思い出したかのように、今日はもう遅い。といわれ、家に帰ることにした。

バイバーイと手を振るアリアさんに一礼して、幻弥さんと部屋を出た。そのままエレベーターで地上に上がり古本屋から外に出ると、外はすっかり暗くなっていた。早く帰らないとマハがまた心配してしまう。幻弥さんにもお礼を言って急ぎ足で帰った。マハのこともあったけど、今日もとても疲れていたので一刻も早く横になりたかった。


と、これが先週本部に行った時の話だ。一日に入ってくる情報が多くてパンクしそうだった。何を言いたいかというと、 敦己の言う通りである。

「おい、何またぼーっとしてんだよ。そんな疲れてんの...?」

「ちょっと考えごとだってば。疲れてない疲れてない。」

どうだかなぁ。と疑惑の眼差しを向けられたところで昼休みが終わった。


そして放課後。

まっすぐ家に帰ると、マハが出迎えてくれた。

「おかえりなさい花人。夕飯、できてますよ。」

マハの声を聞いて自分でも気がつかないうちにとてもお腹が減っていることに気がついた。

「ただいま。すぐに食べるよ。お腹減っちゃって。」

僕の話を聞くと、マハは嬉しそうな顔でリビングに戻って夕飯をテーブルに並べる。

両親が家にいない僕にとって、マハが親代りみたいなものだ。両親は仕事でしょっちゅう海外に出かけていて、家にいるのは一年を通して一月あるかないかだ。

夕飯を食べ終えて、部屋に戻った。

ベッドにもたれかかった途端にドッと疲れが押し寄せてきた。まだ風呂には入っていないけど、このまま眠ってしまおうか、明日は学校は休みだし。

と思った矢先、枕元に置いてあった携帯電話が鳴った。着信だ。

「こんな時間に誰だ?...舞衣?」

携帯のディスプレイには 風見野舞衣 の文字。すごく嫌な予感がした。

「もしもし花人?初仕事だ。今すぐ外に出てこい。」

それだけ告げると舞衣は一方的に電話を切った。

この数秒で、嫌な予感は的中した。

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