第7話 嵐との遭遇
「おいおい。報酬が少ないんじゃねぇか?」
「依頼書に書いた通りの金額です。どこが足りないんですか!」
「いやぁ。この依頼、結構危険だったからよぉ。もっと報酬出ても良いんじゃねぇか?」
声のする方に来ると、市場の通りから外れた人目の付かない通りで、2人の男女が言い争いをしていた。
どうやら男の方が女性の方に難癖をつけている様だ。
「あの男の人って冒険者かな?」
「そうだろうな。」
「あの女の人大丈夫かな…」
「…大丈夫だろう。」
カイルが舌打ちをして市場に戻ろうとする。
えっ?助けないのか?
普通は助けるところじゃないのか?
相手は冒険者だから、無理だということか?
「払えないって言うなら、体で払って貰おうかなぁ!」
男が声を荒げる。
ヤバイ!
早く助けないと!
俺は男女の方に走る。
「やめr…」
ゴキッ
えっ?
男の体が宙に舞う。
続けて女性が男を殴り、気絶させた。
彼女はどうやら、少なくとも男1人相手できる位は強い様だ。
俺は無駄に助けに入ろうとしたってことか。
恥ずかしい…
女性が俺に気が付いた。
「あら坊や、今私を助けようとしてくれてたのかい?」
「無駄だったみたいですけどね…お姉さんはとても強いみたいで。」
「ーまぁ、そいつは冒険者だからな。」
後ろからカイルの声が聞こえる。
「だから大丈夫だって言っただろう。」
「カイルじゃないか。その子はお前の連れなのかい?」
「シャウラさんの息子だ。」
「シャウラの!?ハマルと結婚していたのは知ってたが、子供がいるなんて知らなかったよ。」
シャウラの知り合いなのか?
それにカイルもこの女性の事を知っている様だ。
「母さんとカイル君の知り合いなの?」
「シャウラさんとババァの知り合いで、店の常連だ。だから俺も知ってる。この3人は昔、パーティーを組んでたらしい。」
「母さんの知り合いなんだ…はじめまして。アルファルド・ラティフです。お姉さんは…」
「私は、アトリー・ニクス。カイルの言う通り、坊やの母ちゃんと長らくパーティーを組んでてね。まぁ、シャウラが結婚するって事になって解散したんだよ。」
「コイツはいつも村人に扮して、さっきみたいな冒険者をボコボコにしてるんだよ。本当、戦いが大好きだよな。だから戦闘狂って言われるんだぜ。」
「か弱い乙女に向かってなんだいその言い草は。それにカイル、お前生意気だよ。」
アトリーがカイルの頭を鷲掴みにし、その手に力を入れる。
「イテテテテテッ。ほら、アルファルド見てみろよコイツのこの筋肉。ムキムキだろ?これでか弱いなんて…ハッ!笑えるね。」
「そんな事ないよね?坊や。」
こっちに話を振るなよ…
「……体を鍛えている僕としては羨ましいですよ。」
これで大丈夫か?
カイルみたいに、頭を強く鷲掴みにされるのはごめんだ。
「ほーう。坊や、体を鍛えてるのかい。…ちょっと見せてみな。」
急に服をめくられる。
「わっ…いきなり何をするんですか!!」
「何って…筋肉の付き具合を見ているに決まっているじゃないか。」
「腕でもいいでしょう?」
「俺でもこんな事されたら嫌だわ。」
「そうか?すまんすまん。ところで坊や、君は剣を習ったりしているのかい?」
「はい。父に教わっています。まだまだ弱いですが…」
「じゃあ少し、試合でもしようか。」
……は?
いやいや、こんなムキムキの奴と試合をしたら吹っ飛ばされるに決まってるだろ。
絶対骨の一本二本は折られる。
それに俺は今のところ、ハマルに一本も攻撃を入れる事が出来ていない。
もし試合をしたら、ハマルと同じ大人のアトリーにサンドバックにされてしまう。
カイルが言っている通り、アトリーは戦闘狂の様だ。
「そんな、僕なんて全然相手になりませんよ…」
「こんな5歳児相手に何を言ってるんだ…」
「いやー。シャウラとハマルの息子はどの位なのか知りたくてね。」
「いえ、でも、無理ですよ。」
「坊やの親はどっちも強かったんだ。坊やも少しは大丈夫だろ?な?」
「それでも、無理ですよ。」
「な?」
「だから無理…」
「な?」
「無r…」
「な?」
カイルに助けを求めるが、溜息をついて諦めろと首を横に振られた。
…やるしかないのか。
「…………分かりました。ただし、僕の両親の許可を貰ってください。」
「よっし。じゃあ…まずはシャウラからだな。坊やとカイルが一緒って事は、シャウラはミゼルの所に居るんだろ?早速聞きに行くか!」
そのまま俺はアトリーに腕を引っ張られ、呆れた顔のカイルと一緒に薬屋に戻る事になった。