第6話 買い物
「わぁーーー」
朝食後、俺達は一緒に行きたがっていたハマルを家に置いて、初めて村の中心に訪れた。
もっと静かな所だと思っていたが、ここは想像していたより随分賑わっている。
どうやら今日は朝市があるようだ。
商人と村人の行き交う声や子供の笑う声などが聞こえてくる。
「ふふふ。賑やかでしょ?ここは安全で海も近いから、よく商人の人たちが来るのよ。」
微笑みながらシャウラが言う。
俺はシャウラと話しながら手を繋いで、目的の場所へと歩く。
目的の場所、というのは薬屋の事だ。
シャウラ曰く、薬屋にはたくさんの薬が置いてあるが、それ以外にも調味料が売ってあるそうだ。
ここの調味料は薬草を使っている為、体にも良い。勿論お肌にも良い商品もある。
どこの世界でも女性は美容に気を使うらしい。シャウラもその中の一人だ。
以前シャウラが買い物に行った際、その商品を買って来ていた。
別に美容に気にしなくても、シャウラは綺麗だから大丈夫だと思うのだが…
俺は周りを見渡す。
ーーーうん。やはりシャウラは他の人よりも遥かに美人だ。
本当にハマルは何でシャウラと結婚できたのか…
賑やかな通りから少し外れた通りを進む。
突き当たりまで歩くと、薬屋が見えてきた。
カランカラン
ドアに付いてある鐘の音が鳴る。
ドアを開けると中から独特な薬草の匂いがする。
中には乾燥させた薬草が吊るしてあったり、何かの目を入れた瓶が置いてある。少しグロい。
店のレジに向かう。
そこには俺より少し年上に見える少年がいた。
この子が店員、或いは店長なのか?流石に若すぎる。いやでも、人は見た目では判断してはいけないと言うし…
するとシャウラが少年に
「あらカイル君。店番やってるの?偉いわね〜」
「ババァが俺に押し付けて行ったんだよ。ほんと、全然帰ってこないんだよ。あのババァ、どこに行きやがったんだ…」
「そんな風に行ったらダメでしょ?」
コツン
シャウラがカイルと呼ばれる少年の頭を軽く叩く。
「自分の育ての親をババァなんて言ったらダメ」
「……ったく、分かったよ」
少年は頭を掻きながら言った。
2人は随分と親しい様だ。
カイルと目が合う。
「…ところでそいつは?」
「この子は私の息子よ。今日初めて市場に来たの。ほらアル、挨拶して」
シャウラは後ろにいた俺を前に押し出す。
俺はにっこりと笑い
「はじめまして。アルファルド・ラティフと申します」
右手を胸に当て、お辞儀をする。
よし、本に書いて合った通りにできたぞ。
「………シャウラさん。コイツって何歳?」
「…5歳よ」
「はぁ?これで俺より7つも下かよ…」
「ふふっ、お利口でしょ」
少し驚いた様子で2人は話す。
…あれ、これで丁寧過ぎ?
もっとラフな方が良いっぽいな…
まぁ過ぎた事は仕方がない。
次から気を付けよう。
カイルに目を向ける。
「…俺はカイル。ただのカイルだ」
「カイルさん、ですね」
少し子供っぽく言ってみる。
少しワザとらしかったか。
この世界では、家名が無い者の殆どが孤児だ。
その他に、大人の中には大人の都合で家名を隠している者もいる。
カイルはまだ子供だ。
恐らく孤児だろう。
カイルは少しため息をつき
「堅苦しいからその喋り方やめてくれ。俺の名前も呼び捨てでいい」
流石に7つも上の奴を呼び捨てにするのはな…
「うん、分かった!カイル君。よろしくね」
そんな話をしていると
カランカラン
お客さんが来た様だ。
後ろを振り返る。
そこには腰が曲がっている尖った耳の老婆が立って居た。
「おせーよ。ほら、客来てるぞ」
「おはよう。ミゼル」
カイルが俺達の方を指差し、シャウラが声を掛ける。
「ったく接客もできんのか。お前は」
老婆は呆れた様に言いながら、杖をつき歩いて来る。
この世界に生きる種族については、本が家に無かった為、よく知らない。
だが、この人はエルフなんじゃないか?
ゲームに出てくるエルフと特徴が似ている。
しかし俺の知るエルフは長寿で若々しい姿の者が多いのだが…
「母さん、この人は…?」
「この人はミゼル・ハウスト。このお店の主人よ。彼女は私の古い知り合いなのよ」
「そうなんだぁ。はじめまして、アルファルド・ラティフです」
「ほぅ。しっかりした子じゃないか」
「私達の子供ですから」
シャウラがドヤ顔になる。
「フッ、お前とハマルの子供なら、将来恋人でもできた時に、あんたらみたいに周りを気にせずベタベタする様になるんじゃないかい?あれは鬱陶しいからね」
「人に迷惑はかけてないでしょ?」
「鬱陶しいと思っている時点で迷惑なんじゃよ」
「なにをーっ!」
何か、言い争いが始まった様だ。
それに軽くディスられたし。
…調味料はどうした。買わないのか?
カイルが溜め息をついている。
俺がキョロキョロしていると
「あの2人はいつもこんなんだ。話すと直ぐに喧嘩になる。こうなったら1時間はこのままだぞ」
「えぇ…」
調味料を買ったら村を見て回りたいと思っていたのに…
落ち込んでいると
「……どこか行きたかったのか?」
「うん…」
「じゃあ行くか」
「いいの?」
「俺もお前も暇だしな」
「やったー!」
俺は年相応に喜ぶ。
行く前にシャウラに言っとかないとな。
「母さん、カイル君と村の中を見て来るね!」
聞いてたか分からないが、取り敢えず言ったぞ。
カランカラン
外に出る。
「それじゃあ、レッツゴー!」
「れっつ…?何だそれ」
……あっ。
「『行きましょう』って意味だよ」
ついテンションが上がってしまった。
最近ウッカリやらかす事が多くなっている。
体が幼いから、精神も少し幼くなってしまっているのか。
……ハマルと同じじゃないか。
「…お前、只でさえ子供らしくないのに、そんな言葉も知ってるのか」
「本を読むのが好きで、それで知ったんだ」
上手く誤魔化せたか?
「俺はあんな字がビッシリ書かれてるやつは読みたくないね」
「面白いのに…」
誤魔化せた様だ。
「普通、お前くらいの奴の殆どは外で遊んでいるぞ」
「そんなものなのかな」
「そんなもんだ」
市場に戻ってきた。
日が高くなり始め、朝より人が少ないが、未だに賑わっている。
「もう昼か。何か食べたいものはあるか?」
食べたい物か。
今日は休みだし、何か甘いものを食べたいな。
「うーん…あれが食べたい!」
チュロスの様な物が売ってある店を指さす。
「レジェーナが良いのか?」
「うん。レジェーナ?が良い。カイル君は食べたことある?」
「あぁ」
「おいしい?」
「普通にうまいから安心して食って良いと思うぞ」
カイルがレジェーナという食べ物を店で買ってきてくれた。
「ありがとう!」
「気にすんな。取り敢えず食ってみろ」
「うん」
カリッ
「…っおいしい〜」
このレジェーナと言う食べ物は、見た目通りチュロスの様な味だが、中にジャムが詰まっている。俺はチュロスより好きだな。
「だろ」
2人で市場を歩きながらレジェーナを食べる。
市場には、魚・野菜の店やアクセサリーなどが売ってある店もある。
本当に様々な店があるな。
それに賑わっていて、雰囲気も明るい。
しかし歩いていると
「ーーーーー!!」
市場の賑わう声の中に、何か男女が言い争っている声が聞こえる。
カイルも気付いている様だ。
「カイル君、あっちで言い争ってる声が聞こえるから、そこに行ってみてもいい?」
「…俺は良いけど、危険じゃないか?」
「僕は平気だから、行ってみよう」
「あぁ。」
俺達は声のする方へ向かった。