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治療師の弟子  作者: 鈴木あきら
第1章 新しい人生
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第2話 本争奪戦

生まれて2ヶ月が過ぎた。


いきなりだが俺は現在、授乳中である。

初めは急に胸を出されて、それはそれは驚いた。

中身は思春期の男子なので、始めの時は目が変態の物に成っていたかもしれない。

しかしこれを毎日2ヶ月、もう慣れた。


慣れたは良いんだが、先程から俺をチラチラ羨ましそうに見ているハマルがとても気になる。

流石に引いた。ドン引きだ。

バカップルなのは分かっている。仲が良いのは結構だが、それにも限度があるだろう。

こんなの幼児退行じゃないか。


それはさておき、2ヶ月が経ってやっと首が座ったのだ。

そのお陰で、シャウラが本を読んでくれるようになった。

本には訳の分からない記号の様な文字が並べられていたが、“全知”ですぐ文字を理解をする事が出来た。


始めに読んで貰ったのは、この国の伝記だった。

邪悪な魔物に脅かされていたこの国に、漆黒の勇者ツバサ・タニモトが現れ、魔物から国を救った、という話だ。


勇者が登場するシーンを読んで貰った時、『この勇者、絶対日本人だろ』って思った。漢字にすると谷本 翼、こんな感じか?

それに漆黒って言う厨二感満載な2つ名も、日本人に多い黒髪黒目から付けられてそうだよな。俺は転生者でアルファルドという名前を貰ったから、この勇者は転移者である可能性が高い。

今も俺以外に日本から来た者が居るかもしれない。と言うか、転生・転移者って何人くらいいるんだろうな。

案外結構いるのかもしれない。


それに魔物が登場するって事は、今も存在する可能性が高い。

やはり早く護身する術を身に付けないと…それなら魔法から手を付けるのが無難だな。魔力はある様なので、魔法について書かれている本を読みながら練習くらいは出来るだろう。


幸いなことに、何度かシャウラが魔法の本らしき物を読んで、魔法を使っている所を見た事がある。その本が手に入れば魔法の勉強が出来るだろう。

それで話せる様になるまでは、本を読み魔法の練習をして、話せるようになったらシャウラに教えて貰おう。


ハマルはというと、いつも外で長剣や弓、槍など様々な武器で体を鍛えている。

俺はいつも器用だな、と思いながらその光景を見ている。

剣術とかは大きくなってからハマルに教わろう。



ーーーそれから更に3ヶ月が過ぎた。


「ーーアルが立った!」

「本当!?」


クラ◯が立った!みたいなノリでハマルが言っている通り、俺は遂に立つ事が出来たのだ。

この為に何度練習した事か…

前世の記憶だと、陽太は立つのに生後8ヶ月くらい掛かっていた。対して俺は5ヶ月、我ながら頑張ったと思う。

これでやっと本のある部屋に行く事が出来る。

後ろで騒いでいる二人はほっといて、早速本がある部屋に行こう。

しかし、この部屋から出ようとするとハマルに抱きかかえられ、


「危ないから出たらダメだよ〜」


と笑いながら、魔法への道を阻止された。

クソ!ハマルめ。

お前がシャウラのお菓子を盗み食いしてたのを言いつけてやる!


本を読む為には、家の中の敵の目を盗んで行動しなければいけない。

何故かこの家は、そんなに裕福そうでは無いのに、ハマルとシャウラ以外に使用人?が3人もいる。

執事(仮)のアランさんに、メイド(仮)のミラさん、そして料理人(仮)のエルナントさんだ。


つまり、五人の敵の目を掻い潜らなければいけない。

エルナントさんは料理人の様なので、基本的にキッチンに居るだろうから、そこまで気にしなくて良いとして、問題は他の4人だ。

何度かハマルやシャウラに抱えられて、この部屋を出た事があるが、アランさんとミラさんを見た事は2、3回くらいしかない。一体普段、何をしているのやら…

ハマルとシャウラは、少なくとも今まで見た限りでは鍛えていたり、本を読んでいたり、イチャついたり…しか見た事ないな。


……まぁ、まずは部屋から出ないとだな。

本のある部屋を見つけたら、めぼしい本を持って来よう。

その為にはハマルとシャウラをこの部屋から遠ざけないと…


俺は欠伸をし、ベッドで寝たふりをしてみる。

こうしたら部屋から出て行くだろう。

すると、シャウラが布団をかけてくれた。

そのまま2人が部屋を出るのを待つ。




………あれから1時間ぐらい経っただろうか。 俺の両親ーーいやもう「コイツら」で良いやーーコイツらは俺が寝たふりを始めると、イチャつき始めたのだ。

おいおいおい。

何息子の前でイチャイチャしちゃってるんですかね?俺まだ弟妹は欲しくないですよ?いや、本音を言うと弟妹は可愛いだろうから欲しいけど、けれども!ここじゃなくても良いと思う。

まぁ確かに?最近は、俺の前でイチャつかない様に自制をしている様ですが?………ホント、勘弁してくれ。

10分位ならともかく、1時間だぞ!?

流石に我慢の限界がある。

だが、本っ当に残念な事に、今の俺は何も出来ない。

………根気強く待つしか無いな。はぁ。




……………ハッ!

しまったーーーっ!寝てしまった。

窓の外は薄暗くなっている。

丁度立てたのが昼くらいだったから…随分寝てしまった様だ。

しかし2人は居なくなっていた。流石にあのバカップルでもこの時間までイチャつきはしないだろう。……しないよな?


兎に角、2人が居なくなったことだし、早速本がある部屋に行ってみようか。

シャウラが本を持って来てくれる時は、いつも俺から見て左側から部屋に入って来ていた。

つまり本は、部屋を出て左に行ったどこかの部屋にあるという事だ。

以前この部屋を出た時に見たのだが、この部屋から左にある部屋は確か2つ、だった筈だ。隣に物置部屋、廊下の突き当たりにもう一室、と成っている。

その時にチラッと見えたのだが、物置部屋はとても狭く、本を何冊も置ける様には見えなかった。

恐らく、本があるのは突き当りの部屋だろう。


周りを確認しながら部屋を出る。

右、左と見るが、人はいない様だ。

よし、行くぞっ!

壁を伝いながら、慎重に歩いて行く。

前世ならすぐ近くに思える様な距離なのだが、身体が赤ん坊なので、随分と部屋までが遠く感じる。


ーーーやっと中間地点、物置部屋まで着いた。あと少しで目的地に着く。


「アルファルド様!?」


ーーっ!!

見上げると、そこにはミラさんが居た。

どうやら物置部屋の掃除をしていた様だ。箒とバケツ、雑巾などを持っている。

見つかってしまった。何で俺は気付かなかったんだ…‼︎

これでシャウラ達を呼ばれたら、本を読めなくなってしまう。

こうなったら、えっと、えーっと…ハ、ハニートラップ(?)だ!


……子供特有の潤んだ瞳+上目使いetc...でーー俺も前世の両親も、陽太にこうやってお願いされたら、ついついそのお願いを聞いてしまったものだ。大人は子供に甘くなってしまうーーまずは、奥の部屋に行って本を取りたいという事を伝えてみよう。



「ぽんお、いあい」

(訳 : 本を、見たい)


そして突き当たりの部屋を指差す。

ミラさんを潤んだ瞳でじっと見つめる。

頼む、伝わってくれ…!


「……向こうに行きたいのですか?」


必死に指を差した事もあって、突き当たりの部屋に行きたいという事は伝わった様だ。

俺はコクコクと頷く。


「分かりました。ーー少し失礼します。」


ミラさんが俺を抱えて歩き出す。

ありがとう、ミラさん!

これで早く本を読めるよ!


ミラさんの協力もあって、俺は簡単に目的地へと辿り着く事が出来た。

そこは小さな図書室の様になっていて、窓とドアを除いた壁一面には本棚、部屋の中心には机と椅子がある。

ミラさんに抱えられながら探すと、目的の本は部屋に入って右奥の本棚にあった。


魔法の本、ゲットだぜ!


俺が選んだ本は「魔法基礎」「星霊基礎」、この2冊だ。

これを選んだ時、ミラさんは少し驚いた顔をしていたので


「しぃーーね?」

(訳 : 言わないでね?)


と口の前に指を立ててお願いしておいた。


ミラさんに俺をベットまで送り届けて貰い、早速本を読み始めるとする。

「私がお読みしましょうか?」と言われたが、「いい!」と首を振ると渋々ながら部屋を出て行った。

一応「言わないでね」とお願いはしたが、どうせハマルやシャウラに報告しに言ったのだろうなーと思い、来る前にさっさと読む事にした。

さて、どっちから読み始めようか…

よしっ。まずは「魔法基礎」からだ。


『魔法とは魔力を消費し、その対価として想像した事象を実行するものである。実行可能な事象はその者の魔力量によって差異が生じる。魔力は枯渇を繰り返すことによって増加する。』


パラっと読むと、こんな事が書いてあった。

要は、「MPを無くなるまで使うとMPの最大値が増える」という事だな。

俺の歳からMPを増やしていたら、将来絶対に役にたつだろう。「魔力量によって差異が生じる」様だしな。


よし、早速やってみよう。

ーーって言ったは良いが、そもそも魔力を使うにはどうしたら良いんだ?

本には「想像した事象を」と書いてあるよな。想像でもしたら魔力は消費されるのか?人差し指を立て、指の先からライターみたいに火が灯るのを想像すると、指の先から火が出た。

おぉ、これが魔法ってやつか。


………本に火が付いたら、絶対シャウラに怒られるよな。

ベットの下に本を隠しとくか。


“ステータスオープン”


どうやらこれでMPが3つ減るようだ。

他の種類だと違ってくるのか?水が浮かんでいるのを想像する。すると、水の球が目の前に現れ、これも火と同様にMPが3つ減った。

それでは大きさはどうだろうか。反対の指から先程のより大きい火が灯っているのを想像してみる。するとMPを6つ消費する代わりに、先程の倍くらいの大きさの火が灯った。

ふーん、成る程ねぇ。


“ステータスクローズ”


「実行できる事象はその者の魔力量によって違いが生まれる」か。

まさにその通りだ。

消費する魔力量で魔法の規模が変化する。

工夫したら魔力が少なくても何とか出来るかもだが、俺には見当もつかない。

やはり早い内に魔力量を増やす必要があるよな。


本では、魔力が無くなるまで使えば魔力量が増える、と書いてあるから、魔法を使い続けるか、一気に大きめの魔法を使えば良い筈だ。

このまま火を使ったら、火事とかになりそうだな…火事になったら、俺なんてすぐに死んでしまう。

そうだ!光とかなら危険は無いよな?


俺は一気に残りのMPを使って懐中電灯の光をイメージして、魔法を使ってみた。

すると俺を中心に眩しい光が生まれた。

よしっこれで良いはず………っ⁉︎

きゅ、急に、具合が悪くなってきた。

ずっとジェットコースターに乗っていた様な感覚が、圧縮されたみたいな感じだ。

ダメだ気持ち悪過ぎる……

そのまま俺は意識を失った。



その後、ミラがシャウラと共に部屋に入ってきた。


「たくさん漏らしちゃったわね〜ミラ、新しいオムツを持ってきて〜」

「畏まりました。」


と言い、シャウラがアルファルドのオムツを替える。

魔法で浮かんでいた水がベッドに落ちてしまってたのだ。

いや、漏らしてないから。

魔法だから!

…というアルファルドの言い訳は通る訳も、そもそもこの時気絶していた為、気付く事も無かった。



「ーーシャウラ様、此方の物はどう致しましょう……」

「どうしたnーーえっ⁉︎」



ーー翌朝


「ねぇ、アル?この本はなぁに?」


目を覚ますと、そこには笑顔の般若(シャウラ)がいた。

く、口だけ見ると笑ってるんだよ?目が笑ってないだけで……ひぃっ

その迫力のせいか、後ろに本物の般若が見える。

本に目を向けると、本ーー俺が読んでいた本ーーが折れ、少し破れていた。

恐らく、気を失って倒れた時に本を折ってしまったのだろう。

とにかく謝らないと……‼︎


「おいぇんあしゃいっ‼︎」

(訳 : ごめんなさいっ‼︎)


上手く喋れないが、正座をし頭を下げ、心からの謝罪(土下座)をした。

これにはシャウラも驚いた様で、「ごめんなさいしてるの?」って聞いてきた。土下座が通じる事に驚きつつそれに頷くと、更に驚いていた。


まぁ確かに、この歳の子供がこんなに言葉を理解していたら変だよな。

だからと言って謝らないのはダメだ。破ったのは俺だし、今後見れなく成ったら嫌だし…

俺がしっかりと理解しているのが分かったシャウラは、大して怒ることも無く許してくれた。


そして今後、本を見たい時はシャウラ、居なければミラさん達使用人?と一緒に読む事を義務付けられたのだった。


余談だが、ハマルとは読んではいけないと言われた。

その理由は言われなかったが、自分以上に本で何かやらかしたのだろうな、と俺は思ったのであった。


その後、気を失った理由を探す為に本を読み返すと「枯渇状態になると意識を失う。」と書いてあった。本っ当に小さくだ。まるで広告の隅にある注意書きみたいに。

失敗した。もっとしっかり読んでおくべきだった。

焦っていたとはいえ、そうしていたら般若を見る事は無かっただろう。


こうして俺は生後5ヶ月で、生まれ変わって初めての後悔を味わう事となった。


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