第19話 暇つぶし
遅れて申し訳ありません。
【“飛行”を獲得しました】
数日魔法とスキルを組み合わせて飛行をしていると、脳内でアナウンスが鳴った。
イヤホンで音楽を聞いてる様に音が聞こえた。周りの音が遮断されていな分、少し不思議な感覚だ。
“飛行”
スキルを使用すると、他と同じ様にSPが10消費された。
家の周りを飛んでみると、高度や速度を変える事が出来た。
魔法だと、高度や速度を上げる分消費する魔力の量も増えてしまう。やはりスキルの方が低コストで済む様だな。
今日は訓練がなく、朝のトレーニングも終わっており家にある本も、ミゼルから貰った本も、全て読み終えてしまった為やる事がない。暇だ。
朝食も食べ終わったし、ハマルも食料の確保で出かけている。家に居るシャウラは内職なのか、編み物を何個も作っている。
魔法の訓練に付き合ってもらおうと思ったが、邪魔するのはいけないな。
アトリーは論外だ。訓練に付き合ってと頼めば喜んでやってくれるだろうが、そのせいで骨を折られるは御免だ。
何か無いか………そうだ!
アトリーと言えば、以前アトリーに誘拐された際、カイルが孤児院について言っていたな。
孤児院ってことは、俺と近い年代の子供が多くいる可能性が高い。同年代の平均的な子供の言動を学ぶ場としてはもってこいじゃないか?孤児院といえば、教会のシスターが子供を見ているイメージだが、実際どの様な所なのだろうか。俺が行っても大丈夫そうな所なら、行ってみたいな。
よし、今日は出来れば孤児院の子供たちと交流をしよう。その為にカイルに話を聞かないとな。
家の中に戻り、シャウラに声をかける。
「母さん、ミゼルさんの所に行ってきてもいい?」
「構わないけど、何か用事があるの?」
「カイル君と話がしたいなーって思ってさ。」
「そう、でも仕事中なら邪魔しちゃダメよ。」
「分かってる。それじゃあ行ってくるね。」
「日が沈む前までは戻ってくるのよ。」
「うんっ。」
カランカラン
「こんにちはーー」
「おや、アル。今日は何の用じゃ?」
「今日はカイル君に話があって。」
「ーー俺になんか用か?」
店の奥からカイルが出てきた。
「カイル君、今忙しい?」
「いや、客も来てねぇし、それほどじゃねぇよ。」
「じゃあ質問なんだけどさ。カイル君が言ってた孤児院ってどこにあるの?僕が行っても良い?同年代の子……そもそも、家の外に出ることが少なくて、あまり人と関わっていなかったから、話してみたいんだ。」
「アルは友達がいないのじゃな。」
「い、いるもん…」
一応、カイルがいるし…
家から出たことが少なかっただけだし…
別にコミュ障というわけでは無いからな!
それにミゼルは
「ほう。それは知らんかったのぅ。」
「俺は良いが、あいつら最近になって急に余所者に警戒しているんだよな…前までは他所から来た奴とも仲良く遊んでたりしてたんだけどな…」
「カイル君が許可してくれれば僕は良いんだ。取り敢えず行って話してみたいから、場所を教えてくれる?」
「ちょっと待ってろ、今描いてやるーーーー前連れて行かれたギルドの先にあるから、この通りに行け。そしたら孤児院がある教会に着く。」
「なるほど……ところで、孤児院にいる子って何人くらいいるの?」
「俺含めて9人だ。お前と同じ年代のは…4人くらいだな。」
「うん、分かった!ありがとね。」
カランカラン
俺はカイルから紙を受け取り、薬屋を出発した。
地図は手書きで簡易的な物だが、教会まではギルドのある大きい通りを進んで行けばたどり着く様だ。
あまり行き方は複雑ではないな。これなら簡単に行けそうだ。
さて、教会に行く途中で寄り道するか。
前世では、人の家にお邪魔する時はお菓子を持って行っていた。その方が子供達も受け入れてくれやすいのではないかと思い、俺はお小遣いを入れた小袋を持って来ている。
サーターアンダーギーの様な物が売っている店があり、1つ買ってみる。この「ラガヌム」と言う物を食べてみると、俺の記憶にある前世の家族旅行で食べた味と変わりなかった。
その上安い。10個で鉄貨1枚だ。
この世界の通貨は基本的に白金貨,金貨,銀貨,銅貨,鉄貨の5種類。
名前からして高そうな白金貨が一番高価で、銀貨、銅貨に行くにつれて安くなる。
それぞれ日本円で表すと、大体1000万円,100万円,10万円,1000円,100円という感じだ。あくまで俺がシャウラについて行った買い物や、聞いた話を元にすると、だしな。
それぞれの通貨……と言っても、俺は鉄貨と銅貨しか見たことがないが、前世の硬貨の様に綺麗な丸では無く、四角く少し歪だ。まるで金属製の小さな板みたいだ。
このラガヌムは10個で鉄貨1枚、つまり1個約10円と言う事になる。うま◯棒1本と同じ値段だ。
よし、これをお土産に買っていこう。
お土産を持って俺は地図通りに教会へと向かう。
途中にあるギルドの中からアトリーの声が聞こえた気がしたので、そこから早歩きで向かった。
道沿いをずっと進んで行くと、この通りの突き当たりが見えてきた。
そんなに大きくはないが、白い建物が見える。恐らくあそこが教会なのだろう。
前世で言う、カトリック教会の様な建物の屋根には、何かの紋章が刺繍されている旗が掲げられている。
…着いた事だし、早速お邪魔してみるか。
教会のドアをノックし、部屋に入って行く。
「お邪魔しまーす。ここって孤児院のある教会で合ってますか?」
中を覗くと、綺麗な紺色の髪をした女性が神像の前で祈りを捧げていた。
その姿はどこか神秘的に見える。
まぁ、シャウラの方が綺麗だけどな。
「………そうですけれど、孤児院に何か用ですか?」
「えっとーーー」
「お前もあの豚狐の手下かっ!」
「「「今すぐ出て行けーー!」」」
「うわっ」
横から数人の子供達がやってきて、俺を押そうと突っ込んできた。




