第10話 振り返ると
「さっきの試合、何がいけなかったと思う〜?」
晩飯を食いながらハマルが聞いてくる。
「うーん…身体強化を足にしかしてなかった事かな。もし全身にしてたら、アトリーさんに吹っ飛ばされても気を失わなかったと思う。」
「そうだね〜。それにアトリーの背後に回った時の攻撃をもっと遠くから最初の、魔法で覆った剣にしていたら、アトリーの攻撃が届かなかったかもね〜。まぁ、地力の差もあるけどさ〜。」
ーー地力の差。
勿論、鍛えた力の差もあるが、俺とアトリーには大きなレベルの差があった。
レベルはゲームと同様に経験を積まないと上がらない。
それも実戦のだ。
倒した…いや、殺した相手の魂が経験値となってレベルが上がっていく。
『魂なんて物もあるのか。』
この事を本で知った時そう思ったものだ。
しかしこの世界は魔法など、非科学的な物がある世界だ。
魂があってもおかしくはない。
レベルを上げる際、殺さなくても相手が降伏した場合は、その相手の魔力全てを奪って、それを経験値に変換する。
魔力が枯渇しても死ぬわけではないからな。
とても具合が悪くなるが…
アトリーとの試合の際、年齢やスキルなどを除くステータスを少しだけ見させて貰った。
年齢を見て、それがバレたら絶対ボコボコにされるだろうし、実戦では実際に会って“全知”を使わなければ、敵の情報を事前に知っている事は少なく、試し合いには不要だろうと思ったからだ。
俺の見た情報はレベルとHP、そしてMPだけだ。
アトリーのレベルは39。それに対して俺は1。
それもそうだ。アトリーは戦いの経験が豊富の冒険者で、俺はただの体を鍛えてる5歳児だ。
生きてきた時間も、戦いの経験も違う。
レベルが上がると、ただ鍛えているよりも強くなれる。
絶対にレベルを上げる方が効率的に強くなれる。
基礎を作ったら、その内実戦訓練をハマルに教えて欲しいものだ。
HPとMPについて、HPは俺が2050なのに対して、アトリーは19870。
…桁で違うじゃないか。
やはりHPはアトリーの方が何倍も多い様だ。
しかしMPは34、俺の生まれた時とほとんど同じだ。
魔法を使わない、使えないと生まれた頃と変化しないという事だろう。
「そう落ち込まないで良いのよ?アルは5歳の割にはとっても強いんだから。」
考え込んでいる俺を見て落ち込んだと思ったのだろうか、シャウラが声をかけてくる。
「落ち込んでないよ。少し考え事をしてただけだよ。」
「あらそうなの?」
「それより…僕って強いの?」
この世界では、俺ぐらいの歳の子どもはどれ程強いのだろうか。
訓練を始めて1ヶ月しか経っていない。
せいぜい普通の5歳児より少し強いくらいだろう。
……それにしてはアトリーとの試合の時、周りに驚かれたな。
「ええ、強いわよ。」
「どのくらい?」
「10歳より下の子はアルに勝てないと思うわよ?」
思っていた以上に俺は強い様だ。
「えっ!?まだ少ししか習ってないよ?」
「アルは吸収力が凄いからね〜」
「そう。アルは魔法も武術も、教えた事を全部すぐに習得しちゃうのよ。」
「普通はもっと掛かるんだけどね〜」
これは恐らく“転生者”の称号による影響だろうが、これは思っていた以上にその影響が大きいな。
もう少し気を付けないと変に目立ってしまう。
この2人や、もう既に実力を見せてしまった人はもう遅いが、今後出会う人には、少し強い程度に思われる様にしないとだな。
その為には同年代くらいの基準を知らないといけない。
…そういえば、アトリーがカイルと試合をやらないかと言っていたな。
ミゼルに回復魔法を教えて貰う時に、試合もするか。
「だから私達も色々教えちゃうのよね。私はもう身体強化を教えてるわよ…」
「僕なんて僕が使えるほとんどの武器を教えてるよ〜」
「……普通はいつ習うの?」
「私は、16歳くらいの時に身体強化を習ったわね。」
「僕は〜10歳から親父に剣を教えてもらったけど、体術と長剣しか習ってなかったな〜」
「そんな事を僕に教えてたの!?」
今習ってる事が難しいわけだ。
俺は生まれた頃から魔法について学んでいたが、それでも難しいと思っていた。
こんな事を習っていたなら、それにも納得ができる。
普通、俺の歳より11歳も上の時に習った事を教えるか?
「僕の歳でそんな事ができたら、変な目で見られるじゃん!」
「ただ凄いだけだよ〜それなら目立つくらいだろ〜」
「僕は目立ちたくないのっ。」
「なら加減とかすれば良いじゃない。」
「普通が分からないから手加減もできないんだもん…」
「今まで僕達を相手にしてて、同じ歳の子と戦ったことがなかったもんね〜」
「……なら、ギルドの訓練所に行ってみたらどうかしら?」
「流石シャウラ、いいこと思いつくね〜」
「『ギルドの訓練所』ってなに?」
「冒険者になる為に必ず行かないといけない所よ。ここである程度必要な事を学んで、試験に合格しないと冒険者にはなれないのよ。」
学校の様なものか。
確かにここなら他の人の実力も分かるかもしれないが…
「僕まだ冒険者になるって決めてないよ?」
「他にも似た様な所があるけど、どれもここよりお金が掛かって、アルを行かせる事は出来ないの。」
この家は使用人を雇える程の金を持っているが、それでも足りないという事か。
どれだけ高額なのだろうか…
「ギルドの訓練所っていくら掛かるの?」
「試験を受ける時だけお金が必要だけど、試験を受けるか受けないかは自由なのよ。学んだりする期間は3年で何歳でもいいけど、冒険者になれるのは10歳からだから、7歳になってから行ってみたらどう?ね、受けてみない?」
なるほど、受験料だけかかるってことか。
もし受験しなければ、無料ってことだな。
…面白そうだし、シャウラやハマルに教えてもらえない事も学べそうだ。
行ってみて損はないだろう。
「…うん。面白そうだからやってみようかな。」
期間は3年で、7歳からか。
あと2年も…いや、2年しかないな。
生まれて5年が経つが、あっという間だった。
その間にできる事はやっておきたいな。