地獄の控え室
ここは地獄。死した後罪のある者が訪れる場所。今日もそこかしこでは罪人が鞭打たれ、悲鳴を上げている。ありとあらゆる責め苦を受ける罪人達。そう、そこに慈悲は無かった。あたりに響く罪人の悲鳴、鬼達の笑い声。それが全てだった......
ところ変わってここは鬼達の控え室。そこでは今日も鬼達が働いていた。
「お疲れ!どう今日初めて罪人を責めたんでしょ。上手くいったか」
「先輩......もしかしたら俺この仕事向いてないかも知れないです」
「どうしたんだよ。お前昔から地獄で働くんだ!って頑張ってたじゃん」
「だってあんな人間俺見た事無いですもん!」
後輩の鬼が泣き出す。俺の名前は鬼太。ぶっちゃけ地獄では太郎とかジョンとかそう言うレベルで多い名前だ。実際俺の部署にも14人俺以外にも鬼太がいる。
そして泣いている後輩、こいつはすごい名前だ。銀河と書いてアストロ。もうあらゆる要素が渋滞を起こしそうなやつだ。
ともあれ、まずは話を聞いてやろう。
「大体お前鬼が泣いて......童話かよ!」
「ええ、ええ僕は赤鬼ですから!」
「なにがあったんだよ。言ってみろ」
ヤケになってるな。
「それが......」
アストロから聞いた話は要するにこうだ。今日地獄に来た人間、怖い。
今日来た人間の女が相当変わり者だったらしい。アストロの事をかわいいかわいいと連呼し責め苦にも全く動じなかったと。
「お前がかわいい......どうかしてるなその女」
「先輩もそう思いますよね」
ちなみにアストロは3メートル近い身長のムキムキボディの鬼である。
「しかも責め苦に動じないって......お前どうすんのそれ職務妨害も甚だしいじゃん」
「本当ですよ。もうどうしていいかわからなくて......」
その話をしながら俺はある家族の話を思い出していた。確か伝説と化している家族で自分達から望んで地獄に来たのだが、地獄側で持て余して現世に戻されたとかいう話だが。
「どうしたらいいんですか......」
目の前で身長3メートル近いパンツ1枚の鬼が体操座りをしている妙な光景に付き合わされる。どうしたものか......
「俺はこの仕事始めた時どうだったかなあ......」
ぽつりと呟く。すぐにアストロが反応して来た。
「先輩のデビューの時の話、聴きたいです!」
「そうか。じゃあちょっと思い出すわ」
地獄で俺が働き始めた頃、アレは人間界でバブルが弾けてすぐの頃だった。自殺者が増えて地獄特需なんて言って地獄全体が賑わっていたな。
今とは違って罪人もかなり数多かったし、待遇だって違った。もう今は地獄の需要も落ち着いてしまったから当時ほどの賑わいは無い。
まあ、そんな特需の中でデビューしたから俺の頃は楽なもんだった。なんせみんな絶望して自殺とかそんなのが多かった事もある。たまに事故の被害者なんかも来たけどそんな奴らの方が死んだ事を受け入れなくてよっぽど大変だった。
閑話休題。こりゃ話せる事は無いな。自慢っぽくなるし何よりこれは今する話じゃない。
「やっぱり先輩も同じように失敗とかしたんですか!」
アストロの目がキラキラしている。うっ、そんな顔で俺を見るな。純粋さがまるで凶器だ。
「ああ、そうだな。また話は今度な」
俺ははぐらかす事にした。
「あっ!先輩!待ってくださいよ!」
ここは地獄の控え室。いわゆるスタッフルーム。そんな中での一つの話。