.Lila 6
生まれてくる自分の子供のことが心配になった。その日のうちに、その夜のうちに、わたしは行動を始めた。
最初に、お父さんとお母さんを他人にした。お爺ちゃんの仏壇に手を合わせてから、お婆ちゃんに別れを告げる。みんな、静かに寝静まっていた。
一緒に過ごした時を、いま、知っている人と知っていない人がいるのだ。そう考えるたびに、わたしは自分の力が怖くなった。翼を授かるついでに与えられてしまった、この力が。
最後に、楓の部屋の戸をそっと開ける。
寝顔の綺麗な彼に近づいて、その額に優しく触れた。数秒、そのままにする。楓とのことを思い出すと、笑みがこぼれた。夢うつつだった。この日々は。いま、ひどくそう感じた。感じて、胸のあたりが締め付けられるように痛んだ。安らかに眠る楓の顔が、愛おしかった。わたしのせいだ。ごめんなさい。こうやって周りを振り回して、生きてきたことが多かった気がする。
手をゆっくり楓から離したつもりだったが、彼は目を覚ましてしまった。楓は眠たそうな目のまま、窓から出て行こうとするわたしを見て、ゆっくりと口を開く。
「天使……?」
翼がわたしの背に、音を立てて広がる。
「そう、天使。おやすみ、人間」




