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Lily in Black  作者: 小佐内 美星
第六章 傷と罰
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第五十三話 .Lily

 タグラスは椅子に座ったまま、リリーとアリスを出迎えた。あえて立って迎えることをしないことも、この女性ならそうなのだろうと納得してしまうような優雅さを纏っている。部屋は予想よりも広くない。大量の書類がそう見せるのかもしれないが、ゆったりとするような空間はなかった。申し訳程度に置かれている観葉植物がせめてもの、といった感じだ。部屋は薄暗く、照明は付けられていなかった。タグラスの表情もまた、けして明るくはない。愛想を振りまいてほしいわけではないが、歓迎されていないことが分かる。


「近衛兵隊長、アリス・メイリーです。今日は――」

「ああ、いいわよ。聞いてるから。どうぞ座って。エウルさんも」


 調子が狂うのを感じながらも、タグラスの言葉に甘え、用意されていた椅子に座る。タグラスの仕事机を挟んで、向かい合った。


「ごめんなさいね、こんなところで。応接間っていうのがないのよね、この建物」

「いえ。それにしても今日は――」

「そういうのはいいって。ご用件はなに?」

「…………」


 少しでも機嫌を取ろうとうやうやしく挨拶しようとするも、出鼻をくじかれる。だからといって、くじけている場合ではないが……。どうやら、やはり苦手な相手のようだった。


「……では、」


 リリーがタグラスの目を見つめる。するとタグラスが肩を竦めながら表情を綻ばすので、少し安心した。城の会議室で相対したときはきつい印象を受けたが、近くに来てみると意外と柔和な感じがしなくもない。遠くから見る時と近くで見る時の人の印象が違うというのは、往々にしてあることだ。リリーはいくぶん緊張をほぐして話を切り出す。

 今朝あったこと、つまり、シャーリィが攫われたということから、今までに起こったことを包み隠さずに話す。国衛軍に犯人がいることの裏付けが取れているので、何かしらのカマをかけるために一部うその話をしようかとも思ったが、相手は国衛軍の副長だということを思い出す。即席の小細工は逆効果だろう。リリーはほとんど、正直に話していく。タグラスは聞いているあいだ、リリーから一度も目を逸らさず、表情も変えなかった。


「――そして、報告のためにここへ」


「それ、なんでもっと早く報告しないの?」タグラスの目が鋭くリリーを睨みつける。「近衛兵の内部で問題があったというのは分かったけれど、姫様が攫われたときすぐに報告しにこれば、事態はもう少し早く済んでいたのかもしれないじゃない。どうして?」


「先程も言ったように、姫様の自室はその夜警備もなにもされていませんでした。これを単なる近衛兵の職務怠慢と考えるほど我々は愚かではありません。夜間勤務の近衛兵をまず疑ったんです。その身内ですら疑わしい状況では、国衛軍などもっと信じられません。そして――結果として、疑惑は最終的に、あなた方国衛軍に向きました」


「うちに犯人がいると?」


 タグラスはそれを聞いてもなお表情を変えなかった。リリーはじっと、金髪の美女に見つめられる。その切れ長の目は、リリーを試すような色を浮かべていた。しかししばらくすると、タグラスは小さく面白そうに笑って、身体を背もたれに預けた。


「それはそれで、言ってしまってよかったのかしらって思うわね」

「まあ、それはそうですね。でも、近衛兵だけではできることとできないことが――」

「いえ、違うでしょう?」


 ここに来てタグラスは、あまり変化させなかった表情を一変させた。


「はい?」

「私を疑っているのよね」タグラスは背もたれに寄りかかりながら、口許に笑みを浮かべてリリーを見つめた。薄暗くなっている室内に、彼女の妖艶な眼差しが光っている。

 ……どういう顔なのだろう。リリーはいまいち、彼女が何を考えているのか掴めずにいた。これは、楽しい人がする顔だ。


「アリス隊長はもちろんのこと、あなたも見たものね。私とあの子の仲が悪いところ。国衛軍に疑いが出ているのなら、まず私が疑われるのは仕方のないことだとは思うわ。まあ、単純すぎるとも思うけれど」

「昔は仲が良かったと聞きます」

 彼女は途端に笑みを引っ込め、リリーから視線を外し、そのまま天井の一点を見つめて止まった。

「ええ。そうね、仲が良かったというか、お世話役みたいなものだったのよ。――疑われたままなのも癪だし、協力体制を引かなければどうしようもないから、気は進まないけど、少し昔話をしますか」


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