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Lily in Black  作者: 小佐内 美星
第五章 泡沫の恋心
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第三十五話 .Lily

 いつ雨が降り注いでもおかしくない空が、会議室の窓から望めた。この天気のせいか、会議室にいる面々の表情は浮かなかった。その中でもとりわけ陰鬱なのは、リリーだ。


 臨時会議が開かれる。月数回の定例会議とは別に、即急の対応が必要になった際に開かれる重大な会議である。今日これがこうして開催されているのは、ほかでもない猫惨殺事件の解決を模索するためである。城下町に猫の死体が置かれていた時点で開催は決まっていたが、先日王室でもそれが発見されたということも重なり、全員が肌を削ぐような表情でいた。そのことが、一層リリーの胃を締め付ける。


 アリスのことをちらと見る。彼女は何度も出席して慣れているからか、佇まいが落ち着いていた。椅子の背にもたれて、会議の開始を静かに待っているようだ。アリスから目を離し、気づかれないように面々を伺う。


 いくつもの長机が四角形を作って空間を囲っている。特に座席が決まっているわけではないが、入り口の扉を背にしてリリー、アリス、サラが並んで座っている正面には、国衛軍の長たるアーロンとタグラスだ。右翼には王妃ヘレナがおり、その横に執事長のお爺がいる。ターラはまだ到着しておらず、普段から会議に出席したがらないシャーリィともに空席である。左翼側には準国事隊のヘイデンと、もうひとり男性が座っている。彼はリリーの視線に気がつくと、にこりと微笑みを寄越した。リリーの父、カールだ。リリーもなんとか微笑み返したが、ヘイデンにじろりと見られてすぐに表情を引っ込めた。いたたまれない。彼らの横には、番兵の人たちが座っていた。


 リリーと話をしたあの大男と、もうひとりはぱっと思いつかない。彼らは普段出席しないのだとアリスから聞いていたが、事が事だからであろうか、神妙な面持ちでそこに座っていた。


 あとはもう、ターラを待つのみとなった。


 リリー自身はといえば、会議に出るのはこれで二回目だった。去年、アリスとの試合で負け、実質的に近衛兵の副隊長とか隊長補佐とかそういう役職に就いたわけだが、一度出席した会議のあまりの空気の重さと自らの場違いな感じにすっかり萎縮し、出席はアリスに任せていた。


 今回ここにいるのはこれが臨時会議だからというわけではなく、出る理由ができたというただそれだけに限る。ここに来るまでにかなり難儀した。胃は痛くなるし自分がこの場でなにをしようとしてるのか考えるだけで頭痛が止まらなかった。ここに辿り着いてもなお、リリーは腹の底で決心が揺らいだままで、それに気がついているのか、アリスが心配そうな顔でちらちらとこちらを気にしていた。


 この日まで、リリー、アリス、サラ、そしてヘイリーの四人は、リリーの推理に基づいて犯人を糾弾し得る根拠の裏付けを行ってきた。その方法はまさしく多岐に渡っていて、中には当初賄賂でやり過ごそうとしていたミカフィエル遠征に並ぶような捜査もあった。


 間違いなくそうだと言える、論拠がある。一方で、物的な証拠は皆無に等しかった。だから準国事隊の管轄に入ってしまえば、犯人は罰を逃れる可能性がある。この場でアーロンやヘイデンを納得させなければならないのである。もしそれが失敗した場合は、自分たちが首をくくることになる。リリーはまた胃が痛くなった。



 長机ばかりの広い室内。花のひとつでも置かれていれば空気が和らぐのに、この部屋には装飾といえるものは一切なかった。座り心地ばかりがやたらと良い椅子ではなんの役にも立たない。それでも窮屈な部屋に開放感を作るためなのか、リリーの正面の壁は大きくくり抜かれ、窓があてがわれていた。しかし街を一望できるそれさえ、曇り空のために気を一層重くするだけであった。肌にまとわりつくじめり気と、薄暗い室内に早くも心が折れそうになっている時、後ろから重厚な扉が開く音がした。


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