第十五話 .Dream
「うんうん、優雅に飛んでみたい」
幼いころのリリーとシャーリィの二人は、翼を持つ天使が英雄となる物語の絵本を読んでいた。当時、二人の間では翼というものが流行していたのだ。あらゆる物語に出てくる、潔白と強さの象徴。とはいえ、二人は別に強さを求めていたわけではない。純白の翼を手に入れて、自由に空を駆け回りたかっただけ。空であれば、何をしていても大人に咎められることはない。二人で遊ぶにはとっておきの場所に思えていたのだ。
そんな二人を見て、お爺は溜息をついた。当時はお爺と言うほど歳はとっていなかったけれど、その頃にはもう、そう呼ばれていた。
「絶対に、翼を授かろうとはしないことですよ」
強い口調で言うお爺に対して、幼い二人は反発した。
「なぜ? いいことずくしじゃない。空も飛べるし、強いし、何より美しいもの」
それに対してお爺は真っ向に否定するようなことはしなかった。
「確かに空を飛べるし、強いかもしれないし、美しいかもしれませんな。でもその本にも書いてあるはずです。二人はそのために、命を失うことができますか?」
死。とにかくその言葉が恐ろしい時期がある。まだ生を受けて、楽しいことばかりが蔓延している幼い子どもなんかは特にそうだろう。だからお爺の言う「命を失う」ということが胸につっかえ、途端に不安になって、本を勢い良く閉じたことを覚えている。




