dance
青、赤、ピンク、白、黒、黄色、緑、回るキラーボール。タバコにお酒、男と女。それからそれから、酒酒酒、それから、酒。回るキラーボール。誰彼構わず、顔も見ないで。女のシルエット、触り心地、声。女の腰に手を回す。顔なんか今はどうでもいいんだ。穴があれば、乳があれば、もうそれでいい。顔なんか見ないで、踊り続けろ。踊れ、踊れ、踊れ。手を上げろ、頭を振れ、踊れ、踊れ。
お酒のせいか、音楽のせいか、照明のせいか。次々目に入る女。突如目に止まる女。なんでなんで。目が離せない。視界から消えない。グラグラ、ぐるぐる、視界が回る、でも、女だけがそこに立ち続けた。いい女。
黒い長いつややかな髪。少しつり上がった目。シャープな顎。白い肌に細い腕。音楽に合わせ、髪の毛が跳ね上がる。ほかの女とは違って少し露出の少ない服。それでいて、色気、魅力がそこにはある。いい女。
人と人と人と人をかき分けて足が勝手に近づいていく、気づいた時には黒い髪が目の前に。いつもだったらすぐに声をかけているのに、なぜ、触れられない。その女の顔が姿が、消えそうだ。俺なんかが触れてしまうと、きっと女は消えてしまう。触れられない。消えそうなほど脆い、それでいてどことなく危ない。この女はなんなんだ。その夜、女に話しかけることはできなかった。
次の日、鬱陶しい日光に起こされた。日光に起こされたと言っても、起きたのは昼の1時半。昨日みた女は夢か幻か。二日酔いの苦しみに耐えることに精一杯で、考える余地もなかった。
それから、数日、その女と会うことはなかった。このクラブに来ていないのか、はたまた、消えてしまったのか。またあの女をみたい。魅せられたい。クラブに来ていたこと以外の情報もないわけで、探す手立てなんてまるでなかった。まあクラブにくる女にしては魅力的だと思った程度で、探すために何かしようとは思わないわけで、俺はまた日常にもどった。
クラブで持って帰った女に、あの女のことを話した。自分の妄想かもしれないし、夢かもしれないとも。そしたら、この女、その女を知ってるらしい。なんだ、居たのか。居なくても、良かったのに。居ない方が良かったのに。そんな気分になってしまった。この女が言うには、その女はあの日クラブに初めて来たのだとか。それからは来ていないらしい。性に合わ無かったのかもしれない。紹介してやろうかと言われたが、会ってどうするでもないので、断った。
それから、一週間ほどが経ち、たまに足を運んでいるバーに立ち寄った。ドアを開けて店内を見渡し、空いているカウンターに座った。お酒を頼もうとして顔を上げた。そこには、黒い長いつややかな髪。少しつり上がった目。シャープな顎。白い肌に細い腕。あの時と同じ。いい女。顔をあげて何か言いたげにしていた俺に気づいた女は、注文を、と言いたげな顔でこちらを見ている。しかし、驚いた俺は何も言えずにいた。すると、女が首を傾げ、今度は声に出して、注文は。と聞いて来た。
「お前、この間クラブにいたよな?」
しまった。お前とか。俺、最低。お前って。本当にこういう時の俺はいつも上から目線で、悪い癖だ。女は突然客から質問をされたことに驚いている。質問の内容も見ず知らずの人に言われるようなことではないだろうに。驚きのあまり顔が硬直している。しかし、すぐに元の店員の顔をとりもどした。
「なんのことでしょうか。注文は。」
流石、女だ。俺とは関わりたくないという気持ちが痛いほど伝わってくる。クラブに行ったことも隠したいのか、見ず知らずの俺にいう必要がないと思ったのか、このまま話をつ続けても意味がないように思えた。俺は適当に酒を頼み、そそくさとそのバーを後にした。